平成27年12月13日(日)  目次へ  前回に戻る

聖なる虫・ブリキーゴと大賢虫・くものすけ。何をたくらむのか。

さっきニンゲンに戻った、と思ったばかりなのに、もう間もなく絶望の月曜日に・・・。

なんとかして絶望から抜け出したいので、聖人と賢者の会話を盗み聞きして学んでみます。

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周の武王さまが軍師の太公望に訊ねました。(ということは、紀元前11世紀のころのことです)

予欲立功、有三疑。恐力不能。攻強、離親、散衆、為之奈何。

予、功を立てんとするに、三疑有り。恐るらくは力、能くせざらん。強を攻め、親を離し、衆を散ずるは、これを為すこといかん。

―――わたしはでかいことを成し遂げようと思っているのですが、三つの悩みがあります。これらはわたしの力ではどうにもできないのではないかと思っています。

一は自分より強いものをどうやって攻撃したらよいのか。

次に親しい者たちを離間するにはどうしたらいいのか。

三つに、多数の人民の信頼を得ている権力者のもとから人民を引き離すにはどうしたらいいのか。

どうすればいいと思いますかな。うっしっし・・・。

これはかなり悪の質問ですね。

以下、太公望の回答―――

くっくっく・・・。王も悪にございますな。

さて、その三つの問題はなかなか難しいことばかりじゃが、解決できないわけではない。まず、大原則を申し上げましょう。

因之、慎謀、用財。

これに因り、はかりごとを慎しみ、財を用う。

これ(勢い)にうまくのること。こちらの計画を相手に知られないようにすること。財政的な支出に糸目をつけぬこと。

この三つはつねに重要でございます。

さて、

攻強、必養之使強、益之使張。太強必折、太張必欠、攻強以強。

強を攻むるには、必ずこれを養いて強からしめ、これを益して張らしむるなり。はなはだ強ければ必ず折れ、はなはだ張れば必ず欠く、強を攻むるには強を以てするなり。

自分より強いものを攻撃するには、必ずそいつにさらに養分を与えて強くさせ、そいつに利益を与えてぱんぱんにふくらませることです。すごく強いものは必ずポキンと折れ、すごくふくらんだものは必ず穴があきます。強いものを攻撃するには「強さ」を利用するのです。

同じように

離親以親、散衆以衆。

親しきを離すには親しきを以てし、衆を散ずるには衆を以てす。

親しい者たちを離間するには「親しさ」を利用し、多数の人民を引き離すには「多数」であることを利用するのです。

設之以事、玩之以利、争心必起。

これに設くるに事を以てし、これを玩ぶに利を以てすれば、争心必ず起こらん。

事件によって相手にしかけ、利益によって相手を揺さぶれば、彼らの間に必ずや競争心が発生します。

くっくっく・・・。

例えば、親しい者同士を引き裂くには、

因其所愛与其寵人。

その愛するところとその寵人とに因る。

彼の愛する者と、彼の寵愛している者とに競争させるのである。

一方には欲しがっているものを与えて支援し、また主君の利益になる方法を教えてやる。もう一方には支援せず、また知恵も与えない。こうすれば、

彼貪利甚喜、遺疑乃止。

彼、利を貪りてはなはだ喜び、疑いを遺してすなわち止む。

(一方は利益になることを知っているのですから)主君はその者のおかげで利益を得ることができてたいへん喜ぶ。もう一方は疑われるようになって疎遠にされるものです。

―――なんと卑劣なことをのう。さすがは太公望じゃのう。うっしっし。

くっくっく・・・。

凡攻之道、必先塞明。

およそ攻の道は、必ずまず明を塞ぐ。

だいたい、攻撃のための手順は、必ずまず、相手の賢明さをくらますことからはじまるのです。

そうしておいて、その強い部分を攻撃し、その得意な部分を壊し、女色や利益や美味によって相手を楽しませる。

既離其親、必使遠民、勿使知謀扶而納之、莫覚其意。然後可成。

既にその親を離し、必ず民を遠ざからしめ、謀を知らしめ、扶けてこれを納れ、その意を覚らしむる勿れ。しかる後成るべし。

その親しい者を離間し終えたら、必ず人民と疎遠にさせる。その過程で、こちらの謀略を知って助けようとする者たちの忠告を聞き入れたり、こちらの本心を理解するようにことをさせてはいけない。そうすれば、成功します。

そして、

恵施於民、必無愛財。民如牛馬、数ワ食之、従而愛之。

民には恵施し、必ず財を愛する無かれ。民は牛馬の如ければ、しばしばこれにワ食(いし)し、従いてこれを愛せ。

人民には恵み施さねばなりません。自分の財産だと思って惜しんではいけませんぞ。人民は牛や馬のようなもの、何度もエサを食わして飼いならし、かわいがっておくのです。

ああ、武王さま。

心以啓智、智以啓財、財以啓衆、衆以啓賢。賢之有啓、以王天下。

心は以て智を啓(ひら)き、智は以て財を啓き、財は以て衆を啓き、衆は以て賢を啓く。賢の啓く有れば、以て天下に王たらん。

精神を適切に使えば知恵を増加させることができます。知恵を使えば財産を増加させることができます。財産を使えば人民の支持を増やすことができます。人民が支持すれば賢者の助けを得ることができます。賢者の助けがあれば、世界の王となることもできましょう。

くっくっく。

―――うっしっし。おぬしも悪よのう。

いやいや、武王さまこそ。くっくっく・・・。

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「六韜」(りくとう)第十七・三疑篇より。

聖人であったはずの周の武王と、彼を輔佐した大賢者さま太公望・呂尚がこんな悪だったとは・・・。がーーーーーん!!! ショックでおいら、ニンゲン性を喪失。そしてだんだん感情の無い「平日のオトナ」に変化していくのであった。

 

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