ブタやトンボにも、忘れらないことの一つか二つはある。
本日はむかしの同僚との飲み会。引退したえらいひとも来てました。今日の同僚のみなさんは、ちょうど大震災のころに一緒にハタラいていた人たちです。
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姑蘇の城門の外に度生橋という橋があり、その橋の下にかつて河に沿って民家があった。
ある晩この民家が
雷火所撃。
雷火の撃つところとなる。
カミナリに打たれたのであった。
ただし、被害はほとんどなく、
覆其炊釜於地。
その炊釜、地に覆せらる。
その家の料理用の釜が飛ばされて、うつぶせに地面に転がっていただけであった。
翌朝、家人らが
啓釜以視。
釜を啓きて以て視る。
釜を起こして、覆われていた地面を見た。
すると
地上有梅花一枝。是白土所画。
地上に梅花一枝有り。これ、白土の画くところなり。
地上に梅の花が一枝があった。よくよくみると、白い土の粉が落ちて、ちょうど梅の花を描いたようになっていたのだ。
その梅の画、あまりにも真に迫って描かれていたので、不思議がったひとびとのウワサがウワサを呼び、
観者如堵。
観者堵の如し。
見物人が押しかけて来て、まるで垣根のように取り囲んだほどであった。
しかし、
経月余、其跡漸減。
月余を経て、その跡漸く減ず。
一か月余り経つと、その絵はだんだんと消えてしまった。
今(明の末)から三十年ぐらい前のことだ。
・・・そうです。
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明・銭希言「獪園」巻十一「雷神十四話」の第一話です。
この梅花の画のように、どんな事件もやがてはひとびとの記憶から消えてゆく日が来るのだろう・・・とは思うものの、あの震災のことはまだ忘れられないことである。