潜竜用いるなかれ(時至らず潜んでいる竜を用いてはいけない)(易・乾卦初九)。
本日でセ・パ両リーグの通常日程終了。やっぱり適材を見つけ、適所に当てはめることのできたチームが勝ちますね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
孔子の孫に当たります子思が衛の国で顧問官をしておりましたときのこと。
その国に苟變という有能で胆力もある男がいるのに重用されていないのを見て、衛侯に進言した。
其材可将五百乗。
その材、五百乗を将(ひき)うべきなり。
「彼の才能は、五百の戦車を率いさせることができますぞ」
一国の軍隊は戦車千台、というのが常識でしたので、要するに軍の半分を任せることができる、というのである。
それを聞いて、衛侯は
「うーん」
と唸った。
そしてしばらく考え込んでから、言った。
「魯の国からお見えになった先生の目にも止まりましたとおり、彼は大した人材だと思っております。しかし、
變也嘗為吏、賦於民而食人二雞子。
變や、かつて吏たりしとき、民に賦して人ごとに二雞子を食らえり。
苟變は、かつて小役人をさせていたとき、所管の人民に税金と称して、一人当たり二個の鷄卵を供出させて自分で食ってしまったことがあるのです。
以故弗用也。
故を以て用いざるなり。
この不祥事のせいで、我々は彼を重用できないのです」
と。
「なるほど、そうですか。よくわかりました」
子思はうなずきまして、続けて言う、
夫聖人官人、猶大匠之用木也。取其所長、棄其所短。
それ、聖人の人を官するや、なおし大匠の木を用うるごときなり。その長ずるところを取り、その短なるところを棄つ。
「古来、賢者がひとを用いるのは、名人の大工が材木を利用するときと同じです。その材木に適切なところに用い、その材木には向いてないところには使いません。
そうあるべきなのですが、
今君処戦国之世、選爪牙之士。而以二卵棄干城之将。
今、君は戦国の世に処(お)りて、爪牙の士を選ぶ。しかるに二卵を以て干城の将を棄つるなり。
いま、あなたはこの戦国の時代に生きて、自らの爪となり牙となる部下を選ばねばならない立場であられる。それなのに、タマゴ二個のために、盾となり城となる信頼に足りる将軍を用いないで棄ててしまっているわけです。
一つ、ご忠告申し上げておきましょう。
此不可使聞於隣国者也。
これ隣国に聞かしむるべからざるものなり。
このことは秘密にして、絶対に周辺国に知られてはなりませんぞ」
子思さまは、この特定秘密情報が周辺の国に知られてしまうと、衛国は人材を適切に用いることができないと明らかになってしまい、いずれ諸国に攻め込まれてしまいます・・・と、忠告したのでございます。
・・・・・・・・・・・・・・・
伝・秦・孔鮒「孔叢子」居衛篇より。
ここから「二卵を以て干城の将を棄つ」とは、長所のある人の短所を気にして用いないこと、をいう成語となったのでございます。