夏祭りの季節も近い?
夜は涼しいのですが昼は日が射している間は暑い。夏です。今日も焼けた。夏になってまいりましたので、コワいお話でもいたしましょう。
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ひっひっひ。
北宋の政和年間(1111〜1118)、冀州の宿屋でのことじゃ。誰がいうともなく
某官之家、有異事。
某官の家に異事有り。
お役人のナニガシさんの家で、最近おかしなことがあったそうだ・・・。
ということが噂になった。
ただ、ナニガシという役人は当地にはいない。宿屋では「いったいどこのナニガシさんであろうか」と首をひねっていた。
するとその晩、隣の県のナニガシというお役人が急な出張で来訪して、その宿屋に泊ったのである。
夜、酒食を命じて、その席で自ら言うには、
某妻生一男一女而死。
某の妻、一男一女を生みて死せり。
「わたくしは先妻との間に男の子一人と女の子一人がありましたが、その先妻を数年前に亡くしましてな・・・」
今年になっていろいろ不便なので後妻を娶ったのだそうだが、再婚してしばらくしたある日―――突然、空中から死んだ妻の声が聞こえたのであった。
如小児吹糾子状、三二日輙一至。
小児の吹するが如く、子の状を糾し、三二日にすなわち一至す。
二三日に一回はやってきて、小さな子どもが喚くような声で、息子と娘の様子を訊ねるのである。
「元気でやっている」とか「今日はこんなことして遊んでいた」とか教えてやると声は聞こえなくなるのであった。
ある日、また声が聞こえてきたときに、ナニガシはふと思いついて、声だけの妻に逆に訊ねてみた。
君亦有形乎。
君、また形有りや。
「おまえには、形体というものは無いのか?」
すると声だけの妻は生前のとおり勝気な声で、答えて曰く、
有之。
これ有り。
「有りますわよ」
そして、たちまち
見形如平生。
形を見(あら)わすこと平生の如し。
生きていたときとそっくりの姿を現した。
ナニガシはあまりのことに涙を流して近づこうとしたが、妻は身を引いて、どうしても数歩より近くには寄ってこない。
「いろいろ話したいことがあるのじゃ。おまえと起き伏ししていた部屋に行こうではないか」
と説得して寝室に連れて行き、少し離れて座ったところで、さまざま昔話をした。妻(の霊)も泣いたり笑ったりして過去のことを懐かしく語り合って、かなり和んだところで、ナニガシは突然
起執其手。
起ちてその手を執る。
立ち上がって側により、妻(の霊)の手を握った。
「!」
その手は、
堅冷冰鉄。
堅冷なること冰鉄のごとし。
氷か金属のようにかちんかちんに堅く、冷え切っていたのだそうである。
「なにをするの!」
妻勃然掣手去。
妻、勃然として手を掣して去る。
妻(の霊)は怒りだして、手を振りほどくと、消えてしまった。
・・・・五日ほど後、前妻(の霊)は
乃復来、チ曰、前日遽驚我何耶。
すなわちまた来たりて、チ(いか)りて曰く、「前日にわかに我を驚かすは何ぞや」と。
またやって来て、ずいぶん憤ったようすで、「この間の、あの突然わたしをびっくりさせた振舞いは、いったいどういうことですの!」と叱った。
ナニガシは何度も謝ったが、
「あの振舞いはしかるべきところに訴えて、責任をとってもらいますからね」
と言うのであった。
これが数日前のことであったが、ナニガシが言うには、
「実はその晩、今の妻が夢を見ました。
夢其先祖云、爾夫前妻為怪、乃陰府失収耳。
夢にその先祖の云うに、「爾の夫の前妻怪を為すはすなわち陰府の失収せるのみ。
夢の中に今の妻のご先祖が出てきて、おっしゃるには、
「おまえの旦那の前妻が心霊現象を起こしているのは、実はこちらの政府(←あの世の政府)の捕捉ミスだったのじゃ。
ところが、その前妻が、わざわざこちらの政府に夫の行動が怪しからんと訴え出たので、捕捉ミスをしていたのがわかった。
今已召捕且獲。
今すでに召し捕りてまさに獲ん。
今晩、こちらの役人が収容しに行ったから、いまごろちょうど捕捉されているころであろう」
と。
ナニガシ曰く、
後数日果絶。
後数日、果たして絶す。
「それから数日経ちますが、前の妻(の霊)はもう現われません」
とのことであった。
ああよかった。めでたし、めでたし・・・・・・・・・・・・・・・・・でいいのかな?
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宋・廉布「清尊録」より。
なお、隣の国の政府もMERS感染疑いの隔離者の行動ぐらいは捕捉しておいてほしいところ。
←ひっひっひ。夕刻、こんなまがつ雲が見えておりましたなあ・・・。東京北郊方面。