平成27年2月3日(火)  目次へ  前回に戻る

←気づかれないようにしなかったのでヤラれるおサルさん(下記参照)

そういえば、明日はもう春である。気づいていないおエラがたもいるかも知れませんが。

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紀元前5世紀のころ(という設定だと思いますが)、

呉王浮于江、登乎狙之山。

呉王、江に浮かびて狙(さる)の山に登れり。

呉の王さまが長江を船で渡り、サルの棲む山に登ったことがありました。

「狙」(しょ)はサルの一種ですが、テナガザルのような樹上にいるやつらしい。

さて、王さまが家来どもを連れて山に登ってまいりました。

「ウキー」(なんだあいつらは?)

「ウキキーッ」(危険だぞ)

「ウキ、ウキ」(逃げろ、逃げろ)

衆狙見之、恂然棄而走、逃於深蓁。

衆狙これを見て、恂然として棄てて走り、深蓁に逃る。

王さまたちを見て、サルどもは大慌ててでその場を棄て、深い藪の中に逃げ込んでしまった。

ところが、

「ウキ、ウッキッキ」(王さまでもおいらにはかなうまい)

有一狙焉、委蛇攫抓、見巧乎王。

一狙有りて、委蛇(いだ)として攫抓(かくそう)し、王に巧を見(あら)わす。

一匹のサルは、うにゃうにゃとあちらをつかみこちらを引っかけて巧みの身をかわすのを王に見せつけたのであった。

「わしをからかっておるのか、けしからん」

王射之、敏給搏捷矢。

王これを射るに、敏給にして捷矢を搏つ。

王、弓をひきしぼってこのサルを射たが、すばやく動いて手で飛んできた矢を叩き落としたのであった。

そして

「ウッケッケー」(なんてことはないぜ、うっきっき)

と嗤ったのであった。

「うーむ、歯向かうとは、なおけしからん」

王さまは怒りまして、

命相者趨射之。

相者に命じて趨(すみ)やかにこれを射せしむ。

従者たちに命じて、次々に矢を射かけさせた。

「ウッキッキ!」(うひゃー、たまらん)

はじめはなんとか巧妙に避けていたおサルでしたが、そのうち

どかん

と矢が当たった。

「ウギー!」(やられまちたあ!)

木から落ちて、

狙執死。

狙、執らえられて死せり。

サルは取り押さえられ、殺されてしまった。

「ふはははは」

王さまはお笑いになられまして、

顧謂其友顔不疑、曰、之狙也、伐其功、恃其便、以敖予、以至此殛也。戒之哉。嗟乎、無以爾色驕人哉。

顧みてその友・顔不疑に謂いて曰く、「この狙や、その功を伐(ほこ)り、その便を恃み、以て予に敖(おご)り、以てこの殛(きょく)に至れり。これを戒めよや。ああ、爾の色を以て人に驕ること無かれ。

お気に入りの取り巻きである顔不疑(がんふぎ)の方を振り向いて言うには、

「あのサルめは自分の能力を鼻にかけ、その素早さに頼ってわしに威張りくさりおった。そのせいでこのようなみじめな死に至ってしまったのである。気をつけるがよい。ああ、おまえの顔つきがひとを見下してしまわぬようにするがよいぞ」

と。

「なるほど、まったくにございますなあ」

と頷いた顔不疑であったが、すぐに

帰而師董梧、以鋤其色、去楽辞顕。

帰りて董梧(とうご)を師とし、以てその色を鋤(のぞ)き、楽を去り顕を辞す。

「董梧」というのは人名で呉の国の賢人であるということです。「鋤」(じょ)は農具の「スキ」のことですが、ここでは「除」の仮借。

郷里に帰って賢者・董梧を師匠として、顔つきから人を見下すようなところを取り除き、安楽を去り、高い地位から辞職した。

三年而国人称之。

三年にして国人これを称せり。

三年もするとその国のひとびとは彼のことを称賛するようになった。

そうです。

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「荘子」徐无鬼篇第二十四より。

昔はサルでさえ王に歯向かう心意気があったのですなあ。最近はテロリストにも屈しろと言う人がいたりするが。

 

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