何が可笑しいのか?
温暖斎です。南島は今日も暖かいなあ。みなさんもこちらに来ませんか。
ご家庭のある方には難しいのかな?
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春秋時代、晋の文公(在位前636〜前628)が南にある衛の国を討伐しようとして、兵を率いて出かけた。
途中、領地に引っ込んでいた一族の公子鋤(こうし・じょ)が面会を求めてきたので、公はこれと会った。
両人対座すると、あいさつの言葉も交わさぬうちに、
公子鋤仰天而笑。
公子鋤、天を仰いで笑う。
一族の公子鋤(こうし・じょ)が、天をあおいで大笑いしはじめた。
「うっひゃひゃひゃっ」
あまりにも可笑しそうである。
公問何笑。
公問う、何をか笑える、と。
公は「何が可笑しいのか?」と御下問になった。
公子鋤答えて言う、
「す、すみません、
臣笑隣之人也。
臣、隣の人を笑うなり。
わたくしは隣人のことを思い出して、つい思い出し笑いをしてしまったのでございます」
「おまえの隣人が何をしたのか?」
「そ、それが・・・うっひゃひゃひゃっ」
公子鋤はまたどうしても我慢できぬ、というふうに大笑いして、それがおさまってから、曰く、
「はあ、はあ・・・。えーと、
隣之人有送其妻適私家者。道見桑婦、悦而与言。
隣の人にその妻の私家に適(ゆ)くを送る者有り。道に桑婦を見、悦びてともに言う。
隣人は、その女房が実家を訪ねるのに同行して行ったのでございますが、途中、桑を摘んでいるご婦人を見て、にやにやしてこれに言い寄ったのでございます」
「ほう、それで?」
「それで、ぷ、ぷぷぷ・・・、
然顧視其妻、亦有招之者矣。
しかるにその妻を顧視するに、またこれを招く者有りき。
ところが、彼が自分の女房の方を振り返ってみると、女房の方にも、もう言い寄っている男がいたのでございます。
臣竊笑此也。
臣、ひそかにこれを笑えり。
わたしはここに来る途中、このことを盗み見て、本当に大笑いしたのでございました」
そしてまた「うっひゃっひゃっひゃ」と大笑い。
「・・・わかった」
公悟其言、乃止。
公はその言を悟り、すなわち止む。
公はその言わんとするところを覚って、衛を攻めるのを止めた。
さてさて、そこから
引師而還、未至、而有伐其北鄙者矣。
師を引いて還りていまだ至らざるに、その北鄙を伐つ者有り。
軍を率いて首都に戻ろうとして、まだ戻りきらないうちに、もう晋の北の辺境に侵攻してきたものがある旨、知らせが来たのでございます。
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「列子」巻八・説符篇より。
家庭を持っているひとは大変ですねえ、守るべきものがあって。みなさん、どこかの男が女房に言い寄るのがイヤなのか、なかなか南には来てくれません。しようがないから明日はこちらから遊びに行くか。桃郷もそろそろ暖かくなってきたと思いますし。
なお、この話、「晋の趙簡子が斉を攻めようとしたときに公廬というひとが大笑いした・・・」と登場人物を入れ替えて「説苑」に載ってたりしますので歴史的事実ではありませんので、念のため。