ムシはともだち
おいらは温暖斎。まだ南の島に潜伏中。
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晋の安帝の義熙年間(405〜418)のことだそうですが、山東・琅邪費県の王家で、食べ物が失くなることが相次いだ。
「誰か盗む者がおるのじゃろう」
と主人は
毎以扃鑰為意、而零落不已。
つねに扃鑰(けいやく)を以て意と為すも、零落して已まず。
毎晩、カギとカンヌキをきちんとかけるように注意したが、それでもやはり続けざまに物が失くなるのであった。
いろいろ調べてみたところ、
見宅後籬一孔穿、可容人臂、滑沢。
宅後の籬に一孔の穿たれ、人臂を容るるべくして滑沢なるを見る。
屋敷の裏の垣根に、人間の腕がようやく通るほどの穴があるのが見つかった。中はぬるぬるしているのであった。
「人が出入りするには狭すぎる。イヌかネコか。それにしてもこのぬめりはなんじゃろう?」
試作縄罝、施於穴口。
試みに縄罝(じょうしょ)を作り、穴口に施す。
ためしに縄を編んだ網を作って、これを穴の出口のところに仕掛けておいた。
さてその夜―――
夜中聞有擺撲声。
夜中、擺撲(はいぼく)の声有るを聞く。
「擺」(ハイ)は「開く」、「撲」(ボク)は「打つ」ですが、ここは「仕掛けが開いて何かが入った音がした」ということなのでしょう。
深夜、仕掛けた網が開いて何かが入った音がした。
「何か入ったぞ!」
主人と下人ども、わらわらと
往掩。
往きて掩えり。
仕掛けのところに行って、網の入口を押さえて出られないようにした。
そして灯りを持って来させて、捕らえたモノをよくよく見るに、
「なんだこれは!?」
得大髪、長三尺許。
大いなる髪の長さ三尺ばかりなるを得たるなり。
長さ一メートル弱の髪の毛の、大きなかたまりであったのだ。
しばらく呆然として見ているうちに、髪はうねうねと動き出した。
「あわわ・・・」
髪だと思っていたものは、実は
変為蟺。
変じて蟺(セン)と為る。
正体はミミズであったのだ。
何百、何千という、それも通常より大きなミミズが、灯りの熱のせいで激しく蠢きだしたのだ!
「うわー!」
下人どもが一瞬網を取り落した隙に、ミミズどもは網の目からずるずると這いだし、そして、闇の中に消えて行った・・・。
なお、
従此無慮。
これより慮無し。
これ以降、なにも心配な事は起こらなかった。
そうですので、正体がばれたあとはナニゴトも無かったようです。
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唐・闕名氏「廣古今五行記」より(「太平廣記」巻473所収)。
これは山東省でのことですが、おいらの住んでいる南方には、もっとヘンな生物がいるんだよ。奄美には世界三奇虫の一とされるサソリモドキも棲息しています。一度見に来ないかい?
(注)ほかの二奇虫はヒヨケムシとウデムシ。みんなすごいやつらだから、一度画像検索してみて。