←醒めたマナコで事象の平原を見据えるの図
釜の中でグツグツ煮られて一日過ぎた。なんとか家に帰ってきたので読書でもして寝ます。
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この話は、何らかのガセをつかまされたのだと思いますよ。
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時は19世紀。西洋からの使者が我が大清帝国に西洋イヌを連れて来た。このイヌ、まことに不思議なイヌであり、宮中の高官たちが居並ぶ前で、
以米鋪平地、令犬翻身其上、便成絶奇山水如一幅画。
米を以て平地に鋪(し)き、犬をしてその上に身を翻せしむに、すなわち絶奇の山水、一幅の画の如きを成す。
まず、コメ粒を地面に敷き詰めます。そして、西洋人が命じてそのイヌにコメ粒の上に転がってゴロゴロさせる。すると、あら不思議―――コメ粒の残った部分とイヌが転がって除けられた部分とで、見たことも無い美しい山水の画が浮かび出すのであった。
「おお」
「どひゃー」
「すばらしいアル」
と驚いている間に、西洋人が再びイヌに命じると、
犬翻身一過、倏成人物。
犬、身を翻して一過せば、倏(たちま)ちにして人物を成す。
イヌ、今度はその上でごろりと一回転すると―――「あっ」という間に今度は、人物の画に変わった。
「おお」
「どひゃー」
「すばらしいアル」
すると、どういう仕掛けになっていたものか、さああ、とコメ粒が拡がって、
俄而不見。
俄にして見えずなりぬ。
次の瞬間には、人物の姿は消え、もとのように一面にコメ粒が敷き詰められているばかりとなった。
まことに西洋のものは不思議なことばかりである。
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清・鄭仲夔「冷賞」巻七より。
どういう仕組みになっているのか、まるっとお見通しのひとも世の中にはいるのだろうが、わたしども凡人にはタネもシカケもわかりません。
ただ彼等はわれわれよりも力があるだけである。ダニも象も同じ欲望に動かされるのだ。 (ミシェル=モンテーニュ「随想録」)
と言いきれるような、醒めたマナコもございません・・・。
なお、西洋のイヌのことを「カメ」というのは近代日本特有の言い方で(←今となってはもう誰もそんな言い方しませんが)、西洋びとがイヌを
come!
と呼び寄せるのを聴いて、「ああ、このイヌみたいなドウブツは「カメ」というのだなあ」と解したからなのだそうでございます。