ちょっと咽喉が治ってきた感じがします。病が癒えてきますと腹減ってきた。
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「鱠」(かい)すなわち「なます」、「刺身」料理について。(なお、魚の刺身は「鱠」、ドウブツの刺身は「膾」と書きます)
六朝の宋の時代、江南に麻姑治というひとがいたそうです。このひとについて、ほかのことは何もわかりませんが、
為人好噉鱠。
人となり、鱠を噉(く)らうを好む。
とにかく魚の刺身料理が大好きであった。
コロ助→コロッケ、ドラ右衛門→ドラ焼、ハクション大魔王→ハンバーグ、小池さん→ラーメン・・・の系列に連なるひとだったのでしょう。
さて、華本というひとがいた。このひともほかのことはよくわかりませんが、あるとき、
得一大虵。
一大虵を得たり。
一匹の巨大な「虵」(ダ)を捕まえた。
「虵」(ダ)は「蛇」と同じ。ヘビです。
華本は麻姑治が魚の刺身料理を好むのを知っていたので、
喚麻、為鱠得食、甚美。
麻を喚び、鱠と為して食らうを得るに、はなはだ美なり。
ヘビを刺身にしてしまい、麻を呼んで一緒に食べた。すごくうまかった。
「いやー、これは美味い。これまでこんな美味い刺身を食べたことがない」
麻は
苦索魚名。
苦(はなは)だ魚名を索(もと)む。
どうしてもこの魚の名前を教えてくれと強く求めた。
「ぜひぜひ、お願いじゃ」
華本は
「ぜったい教えませんよ」
と言っていたのだが、そのうちどんどん酔っぱらってきて、
因酔喚取虵及余肉出。
酔に因りて喚びて虵及び余肉を取りて出だす。
酔いが回ってしまって、ついに
「わかりましたよ〜、お見せしますよ〜、今日の魚を〜、うっひっひ〜」
と、ヘビとわかる頭などの余った部分を持って来させたのであった。
「これだったんですよ〜、うっひっひ〜」
「うひゃー、キモチ悪い〜〜!」
麻は
見之大吐、嘔血死。
これを見て大いに吐き、血を嘔(は)きて死す。
それを見て、食べたモノを吐き出した。大量に吐き出し、ついに血を吐いて死んだ。
・・・ということで、美味しいモノを食べても、その正体を無理に突き止めるのは止めましょうね。
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今日食べたブタ丼美味かったが、カワいいブタちゃんを見たあとだったら食べられないひともいるでしょう。シャコもアナゴもかわいいですからね。
南朝宋・東陽無疑の「斉諧記」より(「太平御覧」巻862所収)。
「斉諧記」は宋の散騎侍郎を務めた東陽無疑が、「荘子」の「斉諧なるものは怪を志(しる)すものなり」の語に基づき、怪しい話を集めて七巻にしたもので、五代〜宋代までは存在していたようですが、その後散逸した。「太平御覧」などに十五条ほど遺るのみという。