平成26年5月12日(月)  目次へ  前回に戻る

 

まだ月曜日。今週乗り切れるのか、不安である。その不安に追い打ちをかけるように、遠く夜のしじまに犬の遠吠えが聞こえる。

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東晋・安帝の隆安年間(397〜402)のことだ。

江蘇・呉郡では、

狗常夜吠、聚皐橋上。

狗、常に夜吠え、皐橋の上に聚まれり。

町中の犬が毎夜毎夜、吠えながら皐橋の上に集まるのであった。

毎夜たいへんな騒ぎである。

それにしても、

人家狗有限、而吠声甚衆。

人家の狗に限り有るに、吠声ははなはだ衆(おお)し。

町中の家で飼っている犬の数には限りがあるはずなのに、橋の上に集まって吠えている鳴き声は、あまりにも多い。

あるひと、このことを不思議に思って深夜に窺い見るに、

見一狗有両三頭者、皆前向乱吠。

一狗に両三の頭有るもの、みな前向して乱れ吠ゆ。

一匹の犬に二つも三つも頭のあるやつらが混じっていて、それらの頭がみな一方向を向いて激しく吠えているのであった。

昼間見たことも無い異形の犬たちが、バスカーヴィルの魔の犬のごとく、夜闇に吠えていたのだ。

「うひゃあ」

そのひと逃げ帰って家に閉じこもると、病に臥して数か月起てなかったという。

いくばくも無くして孫恩の乱が起こり、東晋帝国は滅亡への坂道を急速に転がり落ちていくことになる。(参考:東晋が倒れ劉宋に禅譲されるのは420年)

この犬吠えは、亡国の兆しというべきであったのだ。

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南朝宋・劉敬叔「異苑」巻四より。

犬たちはいったい何に向かって吠えていたのか。亡国の不安が膨らんで、ドウブツたちの敏感な防衛本能に暗い影を落としていたのかもしれぬ。ゲンダイはそんなに集まったら保健所が何とかしてくれるでしょうから大丈夫、ですけどネ。

 

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