平成26年4月18日(金)  目次へ  前回に戻る

 

「ちょっと、肝冷斎くん」

「あい、なんでちょうか」

おいらはボスに呼ばれたのでボスの机の前に行きまちた。ボスは、困ったような顏をして言うのであった。

「きみ、もう少しタメになることを書けんのかね」

「あい、わかりまちた、今日はタメになるやつを書きまーちゅ」

おいらは二つ返事。「いやでちゅ」という根性ありませんので。

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清の乾隆のころに、福建の塩道(専売局長)として赴任していた徐景熹というひとがあった。

署中篋笥、毎火内発、而扃鑰如故。

署中の篋笥、つねに火、内より発し、而して扃鑰(けいやく)もとの如し。

その官舎では、竹製の物入れの箱が、内部から火を発したらしく、中身だけ燃えてしまっている、ということがよくあった。ただし、かんぬきやカギはもとのままなので、開けてみるまでわからないのだ。

そのうち、

一夕、窃剪其侍姫髪、為崇殊甚。

一夕、その侍姫の髪を窃剪し、祟を為すこと、ことに甚だし。

ある晩には、徐の愛人の髪を寝ている間に切り取ってしまうという事件も起こり、そのころから、ナニモノかのタタリのような不思議なことが特段に激しくなった。

家人みな困っていたが、そのうちに徐が職を罷めることとなり、帰京の準備をはじめたところ、

未及行而卒。

いまだ行くに及ばざるに、卒(お)われり。

出発前に、不思議なことはぴたりと起こらなくなってしまったのであった。

ああ。

山鬼能知一歳事。故乗其将去、肆侮也。

山鬼よく一歳の事を知る。故にそのまさに去らんとするに乗じて、侮りを肆ままにするならん。

山中の精霊(のような妖魔)は、一年以内に起こることは予知することができる、という。そこで、この官舎にいた妖魔も、徐が官職を罷めることを予想して、好き放題にふざけたことをしたのであろう。

徐公盛時、銷声匿迹、衰気一至、無故侵陵。

徐公の盛時、声を銷(け)し、迹を匿(かく)すも、衰気一に至らば、故無くして侵陵す。

徐が官職にあって盛んであったころには、やつは声をひそめ、何もできなかったというのに、衰えが少しでも見え始めると、さしたる理由も無いのに入り込んできて、支配しようとしたのだ。

すなわち、

此邪魅所以為邪魅歟。

これ、邪魅の邪魅たるゆえんたらんか。

これこそが、ヨコシマなるものの、まさにヨコシマといわれる理由ではなかろうか。

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清・紀暁嵐「閲微草堂筆記」巻六より。

ヨコシマなやつらはこちらが弱ると蔓延ってくるんですよー! ・・・・・ということがわかって、たいへんタメになりまちたでしょう。

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なお、途中に

山鬼よく一歳の事を知る。

という命題があります。

「へー、そうなのか。これもタメになることだなあ」

とみなさん思うと思いますが、これは紀暁嵐先生が新たに発見したことではなくて、「史記」秦始皇帝本紀に出てくる命題であります。

―――始皇帝が崩ずる少し前のこと、ある使者が、東方から都・咸陽に向かって夜中に華陰の地を通り過ぎようとしたとき、

有人持璧遮使者。

人有りて璧を持して使者を遮る。

突然、闇の中にひとが立っていて、玉の飾りを手に捧げ持って、使者の行く手を遮った。

そして、使者に

為吾遣滈池君。

吾がために滈池君(こうちくん)に遣わせ。

「わたしのために、この玉飾りを滈池さまにお渡し願いたい」

と言ったのだった。

さらに

今年祖竜死。

今年、祖竜死せん。

「今年のうちに、おやだまの龍が亡くなりましょうほどに」

と付け加えると、忽ちその姿は見えなくなってしまった。

使者、都に至り、その璧を始皇帝に献ずるとともにその不思議なひとの言葉を伝えると、

始皇黙然良久曰、山鬼固不過知一歳事也。

始皇黙然としてやや久しくして曰く、「山鬼もとより一歳の事を知るに過ぎざるなり」と。

始皇帝は突然黙りこみ、しばらくしてからようやく口を開いて、つぶやくように言った。

「山中の精霊ごときは、この一年ぐらいのことしか予知できない、というが・・・」

と。

なんとも不思議なものがたりでございます。

ちなみに山中の精霊については4月15日の記事も参考になるよ。・・・ほんとにこのHPはタメになるでしょう?

 

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