平成26年3月9日(日)  目次へ  前回に戻る

今日も寒かった。でも今日は旧暦二月九日なんだそうです。もうすぐ春が来るであろう。

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昨日は二月八日で、我が国の民俗では「コト八日」の一つとして重視される日なのだそうですが、チャイナの江南では

八日為祠山張大帝誕。

八日、祠山の張大帝の誕と為す。

二月八日は蘇州祠山に祀られている張大帝さまのお誕生日とされている。

のである。

人民どもが親から子へ、子から孫へと相伝えてきた説話によれば、

大帝有風山女、雪山女。帰省前後数日、必有風雨。号請客風、送客雨。雖天気甚温、亦必驟寒。俗有大帝吃凍狗肉之諺。

大帝、風山女、雪山女有り。帰省前後の数日、必ず風雨あり。「請客風」「送客雨」と号す。天気はなはだ温といえども、また必ず驟(すみや)かにして寒し。俗に「大帝吃らうは凍狗肉」の諺あり。

この張大帝さまにはお二人のムスメさまがいなさって、一人は「風の山」へ、もう御一方は「雪の山」へお嫁に行かれておられる。お二人が大帝のお誕生日を祝うために、この前後に実家にお戻りになられるので、この時期は風や雨雪の天候になるのである。だから、この時期の風を「お客を呼ぶ風」、雨を「お客を送る雨」とよぶ。

天候がどんなに暖かくても、この時期だけは突然激しく寒くなる。

このことを俗に、「大帝さまがお誕生日のお祝いに食べるのは、いつも凍った犬肉だ」と言い習わしている。

寒いから凍っているのはわかるのだが、なぜ「犬肉」なのか。

これにも理由があるのでございます。

「祠山事要」(祠山のことで大切なこと)という書物によれば、大帝は

化身為彘、督陰兵浚河、為夫人李氏所覘、工遂輟。

化身して彘(てい)と為りて、陰兵の河を浚うを督するに、夫人李氏の覘うところとなりて、工遂に輟(や)む。

地底の国の兵卒らを指揮して河川の浚渫をしていたときに、あまりに熱心になって、ブタのすがたになってしまった。(本来ブタだったのである。)

その姿を女房の李夫人に見られてしまい、いつも尻に敷かれている上に

「あなた、ブタでしたの」

とさらに見下げられる始末で、浚渫工事を途中で取りやめて、引きこもってしまった。(蘇州を流れる川の一つが土砂で埋まってしまっているのはそのためである、云々)

是以祀之、避豨用犬。

ここを以てこれを祀るに、豨(キ)を避けて犬を用うるなり。

このことから、正体がブタであることがわかったので、大帝に捧げる犠牲は、ブタではなくてイヌを使うことになっているのである。

ということであるのでぶう。

人民どものオロカな言い伝えですので、おエライ方々に気に留めていただくようなことではありませんが。

ちなみに「豨」はほんらい「イノシシ」のこと。イノシシが前進してくるのは今では「猪突」ですが、唐書などには「豨突」(きとつ)とあります。

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清の顧禄(字・總之或は鉄卿、号して茶磨山人という)の「清嘉録」巻二より。

「清嘉録」は清の後期、嘉靖・道光のころの蘇州の民俗を記録した類稀れな書物で、道光十年(1830)に出版されるや、翌年には我が国に輸入されて、チャイナより日本で大いに読まれたという。邦訳もあるのでぜひ読んでみてくだちゃい。

とにかく今のところ毎日寒いけど、旧暦二月十二日(今週の水曜日)は百花生日である。その日に向けて、すでに花を咲かせる老翁型の精霊「花神」が、寒風の中でもそもそと働いているはずである。そういえば去年の秋は「暑い暑い」と言ってたら十月のはじめから突然寒くなった、という記憶があるので、冬も突然終わって暖かくなる・・・と思うのですが、如何。

 

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