また寒かった。毛皮とかあるといいのですが、我らにそんなものあるはずないので、新聞紙でも体に巻いて春を待つ、しかないのだ。
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漢の景帝(在位前156〜前141)は遊猟がお好きであられた。
あるとき、山中にて大きく美しい虎を見かけ、これを得ようとしたが果たさず、たいへん悔しくお思いになられた。
そこで、
為珍饌祭所見之虎。
珍饌を為して見るところの虎を祭る。
お供えものを作り、山中で見た虎を祀ったのであった。
その晩、帝は夢をご覧になった。
夢の中には虎が出てきて、言うた、
汝祭我欲得我牙皮耶。
汝の我を祭りしは、我が牙・皮を得んと欲するか。
「おまえがわしを祀ってくれたのは、わしの牙や毛皮が欲しいからか」
帝答えて曰く、
「しかり」
「そうか」
虎は嘆息してしばらく無言であったが、やがて曰く、
「よろしい。
我自殺従汝取之。
我自ら殺して汝のこれを取るに従わん。
わしは自分で自分を殺して、おまえにわしの牙や毛皮を取らせてやろう」
と。
翌日、帝が山に入ってみると、
果見此虎死在祭所。
果たしてこの虎の、祭れるところに在りて死せるを見たり。
夢で見たとおり、この虎が、祭祀を行った場所に死んでいるのを見つけたのであった。
「約束を守ってくれたようじゃな」
帝は莞爾とほほ笑むと、すぐ配下に
命剥皮牙。
命じて皮と牙を剥がしむ。
毛皮を剥ぎ、牙を取るように命じた。
「あい、でちゅー」
じょりじょりじょり。ぼきぼきぼき。ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ。にゅるにゅるにゅる・・・。
配下の者ども、毛皮を剥ぎ、牙を取った。
「ちゃて、残った肉はどういたちまちゅるか」
帝、
「棄ておけ」
と命ずる。
毛皮を剥がれた虎の屍はしばらくそのままであったが、ひとびとが目を放しているうちに、
余肉復為虎。
余肉また虎と為れり。
残った肉が、また虎になった。
虎はゆっくりと立ち上がりゆさゆさと歩きはじめ、やがて一声、天地も震えるほどに咆哮すると、山脈の彼方へ消えて行った。
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唐・李亢「独異志」より。黙ってても毛皮をくれる虎がいるといいのですが、皇帝に毛皮をくれる虎があろうともわれわれシモジモにくれる虎がいるわけがないであろう。いずれにせよ虎がまだ神であったころのお話だ。