やっぱり、というべきか。肝冷斎から
しばらく亜熱帯で暮らします。うっしっし。
という手紙が来ました。暖かくなるまでは南海で暮らすようです。しかたないので今日も番冷斎がやります。
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あるひとが斉の国に仕えようとしたが、「賄賂を受けることを好む」というウワサがあって許されなかった。そこで名高い豢龍先生のところに来て、
小人今而痛懲于賄矣。
小人いまにして賄に痛懲せり。
「わたくし、今となっては賄賂をとったことを強く反省しております」
と言うて推薦を請うた。
先生、推薦を引き受けた上で、言う、
「むかしむかし、元石(※)というひとがおったのじゃ。
元石好酒、為酒困、五臓燻灼、肌骨蒸煮如裂。百薬不能救、三日而後釈。
元石は酒を好み、酒の困ずるところと為りて、五臓燻灼し肌骨蒸煮して裂くるが如し。百薬救うあたわず、三日にして後、釈せり。
元石は酒が好きであったが、あるとき酒に中毒して、内臓はいぶされ焼けたように気持ち悪くなり、皮膚も関節も煮られてばらばらになったように動かなくなった。どんなクスリも効かなかったが、三日ほどでやっと酔いが醒めて、元に戻った。
それ以来、彼はひとに言うて曰く、
吾今而後知酒以喪人也、吾不敢復飲矣。
吾、今にして後、酒の以て人を喪うを知れり、吾、あえてまた飲まず。
「わしは、今回のことで、酒が人の命を失わせるものだということがよくわかったわい。わしはもう二度と酒を飲まないことにした」
しかし、一か月ほどすると、
「酒というものはどういう味だったろうか。
試嘗之。
試みにこれを嘗めん。
試しに少し嘗めてみよう」
と言い出し、
始而三爵止。
始めて三爵にして止む。
最初はさかずき三杯で止めた。
翌日、
五之。
これを五にす。
さかずき五杯飲んだ。
翌日、
十之。
これを十にす。
さかずき十杯飲んだ。
また翌日には、もう以前のとおりに大いに飲みはじめ、死にかけたことなど忘れてしまっていた。
・・・というのである。
猫不能無食魚、鷄不能無食虫、犬不能無食臭。性之所耽、不能絶也。
猫は魚を食らう無きことあたわず、鷄は虫を食らう無きことあたわず、犬は臭きを食らう無きことあたわず。性の耽るところ、絶するあたわざるなり。
ネコはどんなに叱られても魚を食べずにはいられない。ニワトリはミミズのような虫を食べずにはいられない。イヌは悪臭を放つ汚物を食べずにはいられない。生まれつきそうせずにはおれないことを、止めてしまうことなどできないのだ。
おまえさんの賄賂を受ける、という性質はおそらく治ってはいないだろうから、仕官は難しいと思うよ」
と。
果たして斉国は、やはりそのひとの仕官を断ってきた、ということである。
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明・劉基「郁離子」巻下より。寓言ですから、歴史的事実ではありませんよ。なお、※印の「元石」は、晋の阮籍のパロディであろう。物語を戦国の時代に設定している(らしい)ので、晋の時代より以前であるから「阮籍」ではなく「元石」というより原始的な名前にしたものと思われます。
わたくしどもの体重が減らず増える一方であるのは、イヌ、ネコ、ニワトリのごときにも劣らないぐらい、その生まれつきにおいてそうせずにはおれないという食欲が止まらないのでございます。努力では乗り越えられないのでございます。治らないのでございます。(都知事候補の過去のことについての寓言ではない・・・と思います。おそらく。)