お出かけから帰ってきまちた。風が強かったけど、おいらのような海賊にとってはどうしても調べておかなければならないところでちたからね。
夜になると東京はやっぱり寒いので、今日は
ぼよよよ〜ん
とじじいに変化して、囲炉裏端で「世の中で一番大切なモノ」について語ることにしましたのじゃ。
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むかしむかし、明の正徳年間(1506〜1521)のこと、四川・鄷都(ほうと)の一村落に大蛇が出ましたのじゃよ。
其大如盌、長数十丈。
その大いさは盌(わん)の如く、長さは数十丈あり。
太さはお盆ほどもあり、長さは五十メートルぐらいもあったのじゃと。
この大蛇、
惟以囓鷄雛、竊飲食而不傷人。
ただ以て鷄雛を囓(か)み、飲食を竊(ぬす)むのみにして、人を傷つけず。
ニワトリ小屋のひよこを食べ、また人の飲み食いしようとしていたものを盗んでいくのだが、ニンゲンを襲うことは無かった。
それでも経済的被害は大きいので、ひとびとは困り果てたのじゃ。
「どうして突然こんな大きな蛇が現れたのであろうか」
「なんとかして退治しなければ・・・」
ところで、この村にはお寺があったが、その裏手の空き地は用に立たないので、一人の貧しい男に賃貸ししていた。
男はこの地を耕して小さな菜園を作っていたが、ある日、草を刈っているとき、
のったり、のったり・・・
見巨蛇蜿蜒而至。
巨蛇の蜿蜒として至るを見る。
大蛇がうねうねとやってくるを見たのじゃ。
「で、出た・・・」
男は貧しかったが智慧も勇気もあった。
一瞬ひるんだが、ヘビを退治しようと、
亟運鋤斫之、蛇鑚入穴中、僅傷其尾。
しばしば鋤を運びてこれを斫るも、蛇は穴中に鑚入し、わずかにその尾を傷つくるのみ。
何度かスキを振り上げ、ヘビを真っ二つにしようと振り下ろしたが、ヘビは一瞬早く土の中に錐を揉みこむようにもぐりこんでしまい、わずかにそのしっぽのところに当たっただけであった。
すると、
かりん
火花が飛んで、
如撃銅鉄声。
銅鉄を撃つが如き声す。
まるで銅と鉄を打ち合わせたような金属音がした。
「?」
男がよくよく見ると、鋤の先がかけている。
そして、ヘビのしっぽを傷つけたと見えたそのあたりには、きらきらしたものが一面に落ちていたんじゃと。
なんとなんと、
散銭数千布。
銭数千布を散らせり。
数千枚の銭が散らばっていたのじゃ。
男は、そこで気づいたのである。もしかすると―――
蛇為銭所化也。
蛇は銭の化するところならん。
―――あのヘビは、銭が化けたものではないのか。
すぐさま女房と弟を呼んできて、力を併せてそこいら一帯を掘り返したんじゃ。
すると、
深丈許得銭一缸、約数十万、悉担帰於家。
深さ丈ばかりにて銭一缸(こう)、約数十万を得、ことごとく担ぎて家に帰る。
一〜二メートルも掘ったところで、銭のいっぱい入ったカメを見つけた。彼らは手分けしてすべて家に担いで持って帰ったが、だいたい数十万枚はあった。
男の家はそれを元手に大いに富み栄えた、ということじゃ。
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すってんぱらりんのぷう。
明・陸燦「庚巳編」より。「大蛇は銭の化けたものだ!」と気づく能力だけではなく、「畑を借りる」「草刈りをする」「女房・弟と力を併せて掘り返す」「家に担いで帰る」「それを元手にして何かをする」・・・といった努力をしないと富み栄えることはできないようです。お金はこの世で一番大切なモノ、であることは否定しませんが、それを儲けるのはめんどくさそうですね。三年寝太郎にでも儲けられるものではないとわたしどもには御縁は無さそう。
なお、チュウゴクでも我が国でも銭がヘビに化することは多いのでございます。前近代には銭に紐を通して銭さしにして利用していましたので、これがうねうねしてどうしてもヘビを連想したものでございましょう。
―――――― え? 土曜日の宿題? そんなもの覚えている人がいるんですか?
一応答えを書いておきますと、
各寺師 人死為良思 妹爾恋 日異羸沼 人丹不所知。
(回答→)おのがじし 人死(ひとじ)にすらし 妹(いも)に恋ひ 日にけに痩せぬ 人に知らえず
(にんげんというのは自分で勝手に自滅してしまうものなのじゃろうか。あのコに恋してから、わしは朝に夕べにどんどん痩せていくが、そのワケは誰にも(あのコにも)伝えられることではない・・・)
万葉集2928番(巻十二)のうたでちたー。銭がヘビに化けていたように、漢字と見えて実は「万葉仮名」だったのでちゅねー。マジメに読み下そうとした人がもしももしもいたとしたら、コドモのしたことだから大目に見てあげてくだちゃいねー。