もう正月。また間もなくシゴトが・・・、と思うと悲しくなってきますが、今年はいい年になりますように・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
蘇州の秀才(州学に属する学生)であった文宗巌(名・森)はある晩、受験勉強のため
読書於楼上、忽聞人登楼声。
書を楼上に読むに、たちまち人の楼に登る声を聞く。
たかどのの上層階で書物を読んでおったところ、ふと、人が階を昇ってくる音を聞いた。
とん・・・とん・・・とん・・・
それは人の足音と聞えたが、纏足の女性が苦労して昇ってくるようにも聞こえたし、けだものが四本の足でよじのぼってくる物音にも似ていた、という。
しばらくすると、すー、と灯りが暗くなり、
一美婦立几前。
一美婦、几前に立つ。
美しい女が、読書机の向こう側に立った。
ぞっとするような美しい女であった。
(これはなにものであろうか)
宗巌兀坐不為動。
宗巌、兀坐して動くを為さず。
文宗巌はじっと座ったまま、微動だにしなかった。
女の方も宗巌を流し目で見たまま、動かない。まるで心に隙が出るのを待ち構えているようであるが、見ているうちにその姿を微妙に変えるらしく、最初の冷たいまでの美しさから、まるみを帯びた、やわらかな体の女に変化しはじめているようだ。
(ひとの心を読んで、かたちを整えているのだ!)
気づいて、恐怖を覚えた瞬間、女は口元に笑みを浮かべた―――ように見えた―――、
「えいや!」
宗巌は
遽取硯撃之。
にわかに硯を取りてこれを撃つ。
机上の硯を手にして、急ぎ女を殴りつけた。
「きゃ・・・・・・・・・・・」
と叫びかけた女―――であったが、
応手而滅。
手に応じて滅す。
硯を振り下ろすと、その瞬間に姿を消してしまった。
どすん。
硯が床に落ちるのと、何物か黒い小さな塊りがたかどのの窓から飛び出して、闇の中に消えて行ったのと、同時であった。
その後、文秀才は官吏登用試験に合格し、役人となってそこそこの官位にまで進んだのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
よかったですねー。みなさまにも、文秀才のようにいいことがありますように。年の初めにお祈りしておきます。 平成二十六年正月元旦 肝冷斎住人一同
なお、引用は明・祝允明「志怪録」より。