平成26年1月1日(水)  目次へ  前回に戻る

 

もう正月。また間もなくシゴトが・・・、と思うと悲しくなってきますが、今年はいい年になりますように・・・。

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蘇州の秀才(州学に属する学生)であった文宗巌(名・森)はある晩、受験勉強のため

読書於楼上、忽聞人登楼声。

書を楼上に読むに、たちまち人の楼に登る声を聞く。

たかどのの上層階で書物を読んでおったところ、ふと、人が階を昇ってくる音を聞いた。

とん・・・とん・・・とん・・・

それは人の足音と聞えたが、纏足の女性が苦労して昇ってくるようにも聞こえたし、けだものが四本の足でよじのぼってくる物音にも似ていた、という。

しばらくすると、すー、と灯りが暗くなり、

一美婦立几前。

一美婦、几前に立つ。

美しい女が、読書机の向こう側に立った。

ぞっとするような美しい女であった。

(これはなにものであろうか)

宗巌兀坐不為動。

宗巌、兀坐して動くを為さず。

文宗巌はじっと座ったまま、微動だにしなかった。

女の方も宗巌を流し目で見たまま、動かない。まるで心に隙が出るのを待ち構えているようであるが、見ているうちにその姿を微妙に変えるらしく、最初の冷たいまでの美しさから、まるみを帯びた、やわらかな体の女に変化しはじめているようだ。

(ひとの心を読んで、かたちを整えているのだ!)

気づいて、恐怖を覚えた瞬間、女は口元に笑みを浮かべた―――ように見えた―――、

「えいや!」

宗巌は

遽取硯撃之。

にわかに硯を取りてこれを撃つ。

机上の硯を手にして、急ぎ女を殴りつけた。

「きゃ・・・・・・・・・・・」

と叫びかけた女―――であったが、

応手而滅。

手に応じて滅す。

硯を振り下ろすと、その瞬間に姿を消してしまった。

どすん。

硯が床に落ちるのと、何物か黒い小さな塊りがたかどのの窓から飛び出して、闇の中に消えて行ったのと、同時であった。

その後、文秀才は官吏登用試験に合格し、役人となってそこそこの官位にまで進んだのである。

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よかったですねー。みなさまにも、文秀才のようにいいことがありますように。年の初めにお祈りしておきます。   平成二十六年正月元旦 肝冷斎住人一同

なお、引用は明・祝允明「志怪録」より。

 

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