肝冷斎は南海の孤島から帰ってきませんので、今年最後の更新は拘泥斎が行います。
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宋のころのこと。
画師の劉侗徹は龍の画を得意としていた。
一日、有夫婦二人造門観画。
一日、夫婦二人有りて門に造(いた)りて画を観る。
ある日、夫婦であろう二人連れの男女が、劉家の門を叩き、描いた龍の画を見せてほしいという。
劉は正堂の机に紙を拡げて、ちょうど新作を描いていたところである。
「ご覧なさるがよい」
と、自信の作などを並べて見せてやる。
しばらく黙って二人で見ていたが、やがて男の方が劉に向かって言った。
龍有雄雌、其状不同。
龍に雌雄有りて、その状同じからず。
「龍にはオスとメスがあって、そのすがたは同じではないのですがねえ・・・」
「へー」
劉は相手にしなかったが、男は続けた。
雄者角浪凹峭、目深鼻豁。鬐尖鱗密。上汰下殺、朱火YY。
雄なるものは角の浪・凹峭(けわ)しく、目深く鼻豁(ひろ)く、鬐(キ)尖り鱗密なり。上は汰にして下は殺(さい)、朱火のYYたるあり。
「オスの方は、角のでっぱりと引っ込んでいる部分がはっきりしていて、眼窩は深く鼻は広くひろがり、タテガミは尖っていてウロコは密です。上半身は太っていて、下に行くほど細くなる。そして、赤い炎に照らされるように光を持つもの」
「ほほう」
続いて女房の方が言いだした。
雌者角靡浪平、目肆鼻直、鬐円鱗薄。尾汰于腹。
雌なるものは角靡きて浪平らか、目は肆(おお)きく鼻は直ぐ、鬐は円く鱗薄し。尾は腹より汰なり。
「メスの方は、角は後ろになびきでっぱりは無く、目は大きくて鼻はまっすぐ、タテガミは丸みがあってウロコの密度は薄いのです。尻尾は腹部より太いのよ。
・・・だから、あなた、そこは、もっと丸くしなくっちゃ」
劉に今描いている画についても、指導しはじめたのである。
「きみら・・・」
劉不能平、作色問何以明之。
劉は平らぐあたわず、色を作して「何を以てこれを明らかするか」と問う。
劉はついにあたまに来て、
「何でそんなことがわかるのか!」
と怒鳴った。
すると、二人は
身乃龍也。
身、すなわち龍なり。
「わたしどもは、龍なので」
と答え、
ぼわわ〜ん!
遂化作雙龍而去。
遂に化して雙龍と作(な)りて去る。
とうとう二匹の龍に変化して、空に昇って行った。
その姿をつらつら見るに、二人の指摘したとおりであった。
以後、劉の描く龍は、「真に迫る」と評されるに至った。
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宋・張君房「乗異記」より。
目の前に見える「現状」が真実ではないのである。みなさん、このわたしさえ本当は龍かも知れませんよ。来年は「ぼわわ〜ん」と龍に変じて空に昇って行くかも。あるいは、日本国は本当は龍だから、来年は株価もさらに上がって、みんなウハウハ状態になるかも。あるいはH島C−プがついに・・・。
・・・よいお年を、と申し上げるほどの度量はございませぬが、どうぞみなさま、よい初夢を。