平成25年12月26日(木)  目次へ  前回に戻る

 

忘年会でした。食べ物を残してはモッタイナイ、とがんばって食べたが、途中で力尽きた。昔のひとは以下の例のようにがんばったというのに。 

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唐の時代のこと。

荊州の長史であった夏侯処信は、ある日お客があったので、料理人に食事を作るように命じた。

「どのような料理にいたしましょうか」

「麺を茹でるだけでよかろう」

その際、そっと耳打ちして

両人二升即可矣。

両人二升にて即ち可なり。

わしとお客の二人合わせて二升も茹でればよいぞ。

当時の一升は0.6リットルぐらいですから、今の日本でいえば三合になる。六合ぐらい茹でればいい、と言ったのである。

「わかりましてございます」

料理人が厨房に入った後しばらくして、お客は

「別の件がございますので、今日はこれで引き取らせていただきまする」

と帰ってしまった。

「そうでござるか、それは残念でござる」

処信はお客を見送ると、すぐさま料理人のところに行き、

「まさかもう麺を茹ではじめているわけではないだろうな」

と訊ねた。

料理人、

已溲訖。

すでに溲(ゆ)で訖りぬ。

「もうほとんど茹であがっていますよ」

その答えを聞いて、処信は天を仰ぎ、

大異事。

大いなる異事なり。

「なんという大問題を引き起こしてくれたのだ・・・」

としばらく絶句した。

やがて気をとりなおしたらしく、指をぱちんと鳴らすと、

可總燔作餅。吾公退食之。

總じて燔(や)きて餅と作すべし。吾、公退してこれを食らわん。

(麺を)まとめなおして火であぶって、だんごにしてくれ。わしは家に帰ってじっくり食べることにしたい。

それを持ち帰って一家の数日の間の食に当てたという。

また、私邸にお客のあったとき、家人が処信に

醋尽。

醋、尽きたり。

酢が無くなりました。

と告げた。

処信は自分専用の酢の小瓶を持っていたので、それを使わせてほしい、というのである。

処信は烈火のように怒り、

「食べ物を大事にしないからそんなことになるのだ!」

と怒鳴りつけると、瓶を逆さにして手のひらの上で振った。

余数滴。

数滴を余すのみ。

出てきたのは数滴であった。

処信は、

因以口吸之。

因りて口を以てこれを吸う。

手のひらに落ちた酢を舐めるように口で吸い取った。

吸い尽くすと、家人に向き直って、

「今日の料理には、酢は無しでもいいだろう」

と告げた。

―――と、この夏侯処信は食べ物を大切にする、といっても常識の範囲内で微笑ましい限りですが、下記のひとたちはいかがでしょうか。

広州の録事参軍であった柳慶は、公邸の中の一部屋だけを使って暮らしていた。

そして、

器用食物並致臥内。

器用・食物、並びにに臥内に致す。

各種の道具も食べ物も、その寝室の中に置かせていた。

つねに自分で管理して、その出入りを厳しく監視していたのである。

あるとき、下男の一人が料理のため、柳慶の留守の間に

取鹽一撮。

鹽一撮を取る。

一つまみの塩を取って使った。

帰宅した柳慶は料理に塩味があるのに気づき、塩の瓶を子細に調べて

「一つまみ分減っているではないか!」

と、下男たちに詰問し、料理をした下男が名乗り出ると、

「なんということをしたのだ!」

鞭之見血。

これを鞭うちて血を見(あら)わす。

血が流れ出るほどにこの男を激しく鞭打って、罰した。

ということである。

また、夏侯彪は身分のあるひとであったが、

夏月食飲、生虫在下、未曾瀝口。

夏月に食飲するに、生虫の下に在るも、いまだかつて口より瀝(したた)らさず。

夏場などに飲み食いしていて、たとえ料理の中に虫が生きたまま蠢いていても、一度口に入れたものを吐き出すことがなかった。

あるとき客があってこれを歓待した。

宴会が終わって客を門まで送って戻ってくると、食べ残しの肉が少し減っている。

彪覚之、大怒、乃捉蠅、与食、令嘔出之。

彪、これを覚り、大いに怒って、すなわち蠅を捉え与えて食らわし、これを嘔出せしめたり。

夏侯彪はこれに気づいて大いに怒った。そしてつまみ食いをした下男を突き止めると、ハエを捕まえてこの男に無理やり食べさせたので、男は気持ち悪がって腹の中にあったものを吐き出した。

夏侯彪はようやく納得して、

「これに懲りて残り物に手を出すでないぞ」

と厳命したのであった。

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ちょっと本末が転倒しているような気もしますが、唐朝の貴族どものやっていることですから、いちおう常識の範囲内か。いずれも唐・張鷟「朝野僉載」巻一より。

ところで、最近、おいら肝冷斎の周辺を探っているひとがいるような気がしてしようがないのですが、オロカなことでちゅな。肝冷斎は何人もいるのですから、おいら一人を調べても何にもわかりませんよ。特においらはコドモなので、会社なんか行ってませんしね。うっしっし。

 

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