あちー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
山東の富家にネコが一匹飼われていた。
周囲のネコが恐れるほど立派なでかいネコであったので、その家では
号曰虎猫。
号して虎猫と曰う。
「トラ」と呼んでいた。
とある客人が言う、
「いやー、りっぱなネコだ。「トラ」と申されますか。
虎不如龍、請更名曰龍猫。
虎は龍に如かず、請う、名を更(か)えて「龍猫」と曰わんことを。
トラは龍にはかないませんぞ。どうでしょう、名を「タツ」と変えられては?」
「ほうほう」
しばらくして、また客人あって言う、
「いやー、りっぱなネコだ。「タツ」と申されますか。
龍昇天須浮雲、不如名曰雲。
龍、昇天に浮雲を須(もち)う、名づけて「雲」というには如かず。
龍は天にのぼるときに、必ず雲に乗るものです。どうでしょうか、「クモ」という名前になさったほうがよろしいのでは?」
「ほうほう」
しばらくして、また客人あって言う、
「いやー、立派なネコだ。「クモ」と申されますか。
雲蔽天、風能散之、請更名曰風。
雲は天を蔽うも、風よくこれを散ずれば、請う、名を更えて「風」といわんことを。
クモは空を覆っていても、風が吹けば散ってしまうものです。どうでしょう、名を「カゼ」と変えられては?」
「ほうほう」
しばらくして、また客人あって言う、
「いやー、りっぱなネコだ。「カゼ」と申されますか。
大風飆起、墻足屏之。名之曰墻猫可。
大風飆起するも、墻はこれを屏するに足る。これに名づけて「墻猫」といえば可ならん。
大いなる風がつむじかぜとなって吹いてきても、土の壁があればさえぎることができます。名づけて「カベネコ」となされればよろしかろうに」
「ほうほう」
しばらくして、また客人あって言う、
「いやー、りっぱなネコだ。「カベネコ」と申されますか。
墻雖固、鼠穴之斯圯矣。即名曰鼠猫可也。
墻は固といえども鼠のこれに穴すればすなわち圯(くず)る。即ち名づけて「鼠猫」といえば可ならん。
カベは固くとも、ネズミがこれに穴を開けますと、やがては崩れてしまいます。名付けて「ネズミネコ」となされればよろしかろうに」
「ほうほう」
そこでこのネコは「ネズミ」と呼ばれるようになったという。
東里丈人嗤曰、胡為自失本真哉。
東里の丈人、嗤いて曰く、「なんすれぞ、自ら本真を失うや」と。
村の東の外れに住んでいる老人が、大笑いして言うた、
「どうして本来の姿を失って、こんなことになってしまったのじゃろうなあ」
と。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
どこかで聞いたような。これは「応諧録」(明・劉元卿)という本に載っているお話だ、と清の王初桐というネコ大好きの人がネコに関する古今の記事を集めた「猫乗」という本に書かれておりました。この「寓言」に真理があるとすれば、やっぱり「ネズミが一番強い」から、みんな「ネズミの嫁」になりたがる、ということでしょうかねー。
さて、間もなく七月です。六月末は水無月祓で半年分のよごれを流す日。会社では異動。よごれた大人の方たちは東京などに異動を命じられて沖縄を追われて行きます。でも肝冷斎はコドモでちゅから、大人のように会社の命令で沖縄から追放される、というようなことはありませんので大丈夫。うっしっし。