昨日会社を辞めたワタクシ。今日は本土にやってまいりましたが、本土はあまりに寒いことが判明。服ありませんよ。また新聞紙にくるまって暮らすか。
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さて、むかしむかしのことでございます。
戦国の時代、宋の国に曲技の名人がおりました。(こういう技芸に秀でた人物を、当時「蘭子」といったらしい。)
宋公、
「その蘭子を連れてまいれ」
と呼び寄せてその技を見せるよう命じた。
名人は、
以双枝長倍身、属其脛、併趨併馳。
双枝の長さ身に倍するを以てその脛に属せしめ、併せて趨(はし)り併せて馳す。
自分の背丈の倍はあろうという二本の長い竿を持ち出して来た。それを足の膝より下に取り付けると、ひょいとその上に立ちあがったのである。そして、その竿を足のように操り、小走りに駆けだしたかと思うと、大股に走り出しはじめた。
「おお! すごいぞ」
次いで、その竿の上に立ったまま、
弄七剣、迭而躍之、五剣常在空中。
七剣を弄して迭(おく)りてこれを躍し、五剣常に空中に在り。
七本の剣を手にして一本一本次々と空中に投げ上げはじめたのであった。剣はまるで環を画くかのように蘭子のまわりを回転した。よくよく見ると、そのうち五本は常に空中にあり、二本が彼の手にあるのである。
「うひゃうひゃ、すごいすごい」
宋公はその技に大いに驚き、黄金と絹を与えて厚くこれを賞した。
ところでこのころ宋にはもう一人、曲技の名人がおったのでございます。
彼はそのことを聞いて、
「自分の方がよりすごい芸を見せることができる」
と宋公にお目通りを願い出た。
ところが、それを聞いた宋公は、大いに怒り出したのでございます。
昔有異技幹寡人者、技無庸、適値寡人有歓心、故賜金帛。彼必聞此而進、復望吾賞。
昔、異技有りて寡人に幹する者は、技は庸無きもたまたま寡人の歓心有るに値(あ)い、故に金帛を賜える。彼、必ずやこれを聞きて進み、また吾が賞を望むならん。
「以前、すごい技を寡人(「徳・才少なき者」の意。諸侯の自称)に見せてくれたやつは、技はよくよく考えると何の役にも立たないので本来報酬を受けるべきではなかったのだが、たまたま寡人はそれを見て喜んだので、黄金と絹を遣ったのであった。今度のやつはそのことを聞いて、またわしの褒賞がもらえると思って名乗り出てきたのであろう。
わしが役に立たぬ技術を歓ぶと思い込んでおるとは、怪しからんやつじゃ」
そして
拘而擬戮之、経月乃放。
拘してこれを戮さんと擬し、月を経てすなわち放つ。
目通りを願い出て来た男を拘束し、死刑にすると脅した上で、一か月してからようやく釈放したのであった。
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ああコワかった。「列子」説符篇より。
エライひとに好評価をもらえるのは一回だけで、二回目は当たり前、時には「悪のり」と捉えられて罰せられる、という教えなのだそうでございますよ。それにしても、これほどの超絶のすごい技を持っていても二回目の方はぶっ殺されそうになるのです。やっぱり宮仕えは恐ろしいことでございます。ああ、イヤんなっちゃった・・・