うひゃー。今日もさっきまでコワい夢見ていまちた。ネクタイして会社へ行って悩んで苦しんで、夜になってやっと帰ってくる夢です。
「こちらが現実だったらどうしよう・・・」
と思って恐ろしかった。しかしさっきやっと目が覚めまして・・・うっしっしっしー。おいらはやっぱり古代の童子でちたよー。よかった、よかった。
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さて、おいらがまた町を歩いていると、向こうから、南郭子綦がやってきました。
「南郭子綦のおじたまではありませんか」
と声をかけますと、おじたまは立ち止まりまして、
「や、肝冷童子くんか、相変わらず明るく元気で素直そうないい子じゃのう」
と言われまして、おいらもまんざらではない。
「うっしっしー」
と愛らしく微笑んだのでちた。
「ところで、南郭子綦おじたまは、どう見ても昨日の南伯子葵おじたまと同じ人なのに、名前の文字が違うのでちゅか?」
「わしに言われても困るのだが、南郭のリーダー格なので南伯といい、「葵」(キ)と「綦」(キ)が古代でも同じ音だったので通用させて、あちらの「荘子」大宗師篇では「南伯子葵」、こちらの「荘子」人間世篇では「南郭子綦」と表記されているようなのじゃ」
「なあるほど。・・・ところでおじたまは今日はどこに行くのでちゅか」
「わしは郊外の商丘にすばらしい巨木があるというのでそれを見てイヤされてこようと思っている」
「お。「商丘」といえば大昔に「商」の国(いわゆる「殷」と同じ)の都があったという丘でちゅね。そこにそんないいものがあるの?」
「わしもまだこの目では見ていないのじゃ。そうだ、肝冷童子くんも一緒に見に行くかね」
「あい、でちゅ。おいらも行きまちゅよ。自分探しの一環として」
というわけで、おいらたちは城門を出、半日近くかけて商丘に到着しました。
見大木焉。
大木を見たり。
巨木がありましたよー!
その大きさ、
有異、結駟千乗。
異有り、駟を結ぶこと千乗ならん。
異常なほどである。その木には四頭立ての馬車を千台はつなぐことができそうだ。
そして、千台の馬車は、ことごとくその木の葉蔭に入りこむことができるほどであった。
「うわー、これはでかいー!」
「すごいね。
此何木也哉。此必有異材夫。
これ何の木なるや。これ必ず異材有らんか。
これはいったい何という木であろうか。この木はきっとたいへん役に立つものなのだろうな」
と言いながら、二人で木の枝を見上げますと、ごつごつとコブがあり、ぐにゃぐにゃと曲がりくねっていて、
不可以為棟梁。
以て棟梁と為すべからず。
どうも家の柱や棟木に使うことはできそうもない。
次に根っこを見てみますと、ぼろぼろと皮が剥けあちこちにヒビが入っており、
不可以為棺椁。
以て棺椁と為すべからず。
どうも棺桶やその外側の箱に使うこともできそうにない。
「どうも役に立ちそうにありませんね」
「う〜ん。・・・だが、肝冷童子くん、あすこになっている木の実はどうかね。ぴかぴかといかにも毒々しい赤色に照り輝いていて、どろどろにおいしそうではないか」
「お、ほんとでちゅね」
二人でその赤い、大きな実をもいでみました。
「なんかにゅるにゅるして、変な臭いがしまちゅよー」
「うむ。美味いものはたいてい変な臭いがするからな。これはうまそうだぞ、うはははは」
「うっしっしー」
と言いながら、二人でがぶりとその実に齧りついた―――!
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さて、二人の運命や如何に。「荘子」人間世篇第五章より。