平成25年4月5日(金)  目次へ  前回に戻る

 

「琉球古語辞典・混効験集の研究」(池宮正治、第一書房1995.11)読み終わった。

「混効験集」は康熙五十年(1711)前後に、松村按司朝睦の奉行のもとに編纂された、当時の首里王府の御内原(おうちばら。内裏)で使われていた言葉約1100を集め(ただし重複が100近くある)、その意味などを注したものである。

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その中で心ひかれた項目を二つ三つ。

○ずいんずいん  (99)

何やこれは?

と興味を惹かれますでしょう。これは原注に

蛍をいふ

とあり。現在でも沖縄方言ではホタルを「じんじん」というよし。

○ひやくさむしやもぢ (100)  わかむしやもぢ (231)

何やこれは?

これらは、「ひゃくさ・むしゃもぢ」、「わか・むしやもぢ」と分解されます。「ひゃくさ」は「百歳」で「老いた」の意、「わか」は「若い」の意、「むしやもぢ」が難解ですが、これは「御さ文字(みさもじ)」のこと。「さ文字」は本土の女房詞に源流があって、「さかな」のことをその頭文字だけ取って「さ文字」と呼んだのである。

すなわち、「ひゃくさむしやもぢ」は「老いた魚」、「わかむしやもぢ」は「若い魚」という詞ですが、原注によれば

老いた魚 → エビのこと

若い魚  → イカのこと

なんだそうです。「魚類ではないぞー」などと子どもみたいな文句を言わないように。

○くそくはい  (906)

原注によれば、これは

童子の嚏(ハナヒル)時まじなふ詞。

和詞にくさめくさめといふ。徒然草に「児のはなひる時、かくのごとくまじなはねば其の児に害有り、と乳母などの云いならはす」と云う也。

なのだそうです。

はっくしょん、とクシャミする(「嚏」(テイ。はなひる))行為を「クシャミ」という、と思っている人が多いと思うので申し上げておきますと、「クシャミ」というのはもともとはっくしょん行為の名前では無くて、はっくしょんは他者のノロイを受けたしるしであると信じられていたから(←現代でもその名残で、くしゃみをすると「誰かがウワサしている」ということになっている)、

休息万命(きゅうそくまんみょう)、休息万命

と二度唱えごとをして、ノロイを祓わねばならなかった。

この「きゅうそくまんみょう」が「くそくまみょ」→「くそんみょ」→「くさめ」と変化して、はっくしょん行為をすると「くさめ、くさめ」と二度言うことになりまして、今でははっくしょん行為自体を「くさめ」→「くしゃみ」と呼ぶようになったのである。

「徒然草」のころと同じ唱えごととしての「くそくまんみょう」が沖縄ことばに残っていたのが、この「くそくはい」なるマジナイ詞なのであった。

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「こんな詞より、「もどろ」とか「せぢ」とか「きや」とか古琉球文化のキーワードがたくさんあってそちらの方が重要だろう」

という批判の声が聞こえますが、わたくしは「重要だから」ご紹介しているわけでもないので、「重要」なのはまたどこかで御紹介することといたします。

「おまえに紹介されるイワレはない、わしは市販されているものを読むぞ」

と言っていただくのが一番よいのですが、市販本は数種あるがみな高価なのでお薦めできないのである。

 

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