平成24年8月18日(土)  目次へ  前回に戻る          

 

明日も休める〜。明後日は来なければいいのに。体にぶつぶつが出来てきたし、自宅療養中なので、今日もおじたまたちにお話する講話の材料集めしてまちゅ。

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秦の昭王、東方に向かって威圧的外交を行わんとしたが、趙において王族の平原君が政権が握り、同国が対秦強硬論に転じたこと、さらに秦・趙を除く五国の輿論が、国際的に賢者としての名声の高い平原君に期待するところがあり、反秦に傾きつつあることを憂慮しておった。

宰相の応侯(范睢のこと)、昭王に向かって言う。

「御心配には及びませんぞ。これまでどおり、(わしの言うとおりに)六国に対し強圧的に出ておくのがよろしうございます」

「う〜む、じゃが平原君の名声はあなどれぬぞよ」

「うっしっし」

応侯は笑いまして、申し上げた。

「王はこのようなことを御存じありませんかな。

鄭人謂玉未理者璞。

鄭ひと、玉のいまだ理(おさ)めざるものを「璞」(ハク)という。

鄭の地方のひとは、まだ磨かれていない「玉」の原石を「璞」(ハク。「あらき」と訓じる)と呼びます。

ところで、

周人謂鼠未腊者璞。

周ひと、鼠のいまだ腊(セキ)せざるものを「璞」という。

周の地方のひとは、まだ乾物になりきっていないネズミの死骸を「璞」と呼んでおるのです。

乾物を造る原料ですから、磨いて玉になる前の玉の原石と同じ状態だ、ということですな。

さて、

周人懐璞過鄭賈、曰欲買璞乎。

周ひと、璞を懐きて鄭の賈(コ)を過(よ)ぎり、曰く、「璞を買わんと欲するか」と。

周の地方の人、「璞」をふところに大事にしまいこんで、鄭から来ている商人のところに行きまして、言うに、

「あなたは「璞」を買おうとしているというが本当ですかな」

鄭から来た商人、答えて曰く、

欲之。

これを欲す。

「お買いしたい」

周ひと、頷いて、ふところから「璞」を出した。

「おいくらで引き取っていただけましょうか」

鄭の商人、「むむ?」とそれに目を近づけて、

視之、乃鼠也。

これを視るにすなわち鼠になり。

よくよく見たが、どう見てもネズミの死骸である。

「う〜ん」

と商人は腕組みし、

謝不取。

謝して取らず。

「今回は結構です」と断って、受け取らなかった。

・・・・と、このお話、王は御存じでいらっしゃいますかな?」

昭王は応侯を深く信頼していたので、

「先生、寡人(かじん。諸侯の自称)はそれを知りません。どうぞお教えください」

とへりくだった。

「うっしっし」

応侯曰く、

「平原君は確かに天下に賢者として知られておりまする。されど、彼はこのたび政権を握るために、父に当たる武王を兵を以て取り囲み、これを軟禁して自分の権力を認めさせました。(彼自身が、従来の社会秩序を否定して、力ある者が権力を掌握する時代になったことを証明したのです。)

天下之王尚猶尊之。是天下之王不如鄭賈之智、眩於名不知其実也。

天下の王、なおこれを尊ぶ。これ、天下の王、鄭賈の智にしかずして、名に眩(くら)みてその実を知らざるなり。

各国の王さまたち(昭王さまも含む)は、それでもやつを尊敬し、あるいは恐れるのでございますかな。各国の王さま(昭王含む)のおつむには、先ほどの鄭の商人ほどの判断力も無いのでしょうかなあ? 鄭の商人は「璞」という名前ではなく実態によって判断して、ネズミを買いませんでした。しかし、王さまたちは名声の方に目がくらんで、実態を認識なさっていないのではないですかな?

うっしっしっし・・・」

「そ、そうかなあ・・・」

この後、平原君は何とか六国の外交を変更させて、協力して秦に対抗する状態を作り出すのですが、しかし結局・・・。→この記述へ

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「戦国策」秦策三より。

やっぱりネズミ食べていたんですねー。ずいぶん昔に広州ではネズミの砂糖漬けみたいなのを食べるという「蜜喞」のことを紹介したことありますが、今度は乾物か。たしかに乾物にして塩でもまぶしておけば何でも美味いかも知れんな。

なお、平原君が趙の武王を監禁した、という史実は無いそうですので、念のため。ほんと、チュウゴクの本はウソばっかりですね。

ちなみに、上記の寓言(「鄭賈謝璞」(鄭の商人が「璞」をことわった))は、評判ではなく実態で判断すべし、ということですので、おわかりとは思うのですが、これも念のため。

 

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