平成24年1月30日(月)  目次へ  前回に戻る

 

今日も寒くて、もう天地間に生きているのイヤになってきた。

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以前ひとに聴いたことがあるが、大陸から東に船出すると、

沙門島

という孤島にたどり着くということだ。

この島は

為竄逐罪人之所。

罪人を竄逐するのところたり。

罪びとを追放するところであったという。

晴れ渡った冬の日などに、大陸の海岸近い高山から、

見海中島嶼大小不一。

海中の島嶼、大小一ならざるを見る。

海のかなたに大小さまざまな大きさの島の群れが見えることがある。

その中の東北隅の一小島は、島の周辺が垂直な断崖に囲まれ、断崖には激しく波がぶつかっているのであるが、これが「沙門島」である。

沙門島は、一に「紗帽島」ともいわれたのだそうで、そのゆえは、その形がまるで帽子のように海面から垂直に立ちあがっているからであるという。

船乗りたちが海中に漕ぎ出して、

離岸不数十里、望之色赤、無林巒、絶人跡。

岸を離れること数十里ならず、これを望めば色赤く、林巒無く、人跡を絶つ。

島の岸から数十里(十キロぐらい)に近づいてこれを見るに、島全体が色赤く、木の生えた嶺はなく、また人の姿はまったく見えない。

ああ。

遷客至此、鷺濤日夜瞎耳、魑魅与居。

遷客ここに至るも、鷺濤に日夜瞎するのみにして、魑魅とともに居るなり。

仙人がここに来遊したとしても、鷺のように白い波濤に昼も夜も目を剥くばかりで、ともに暮らすのは精霊のみ、というありさまでありましょう。

海の中に飛び込んで己れの息の根を止めなくても、この島そのものが、

已知死所。

すでに死所なるを知る。

もう死の世界なのだ。

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と清の徐崑国「遯斎偶筆」巻上に書いてあった。「獄門島」だともっとかっこいいのですが、「沙門島」でした。

同書は徐崑国が浙江、山西を自ら歩いて見聞した地理・文物・風俗の記録集で、

近時筆記中之佳本也。

近時の筆記中の佳本なり。

最近の筆記小説の中ではよくできた作品である。

と、民国の王文濡に評されておる。

とりあえずわしはもう寒いのにイヤになってきたので、これから雲に乗って沙門島に行って穴に籠っておりますので、春になったら起こしてください。

 

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