肝冷斎は「仙台方面に行ってきまちゅ」と言い残して、どこかに行ってしまいました。もう帰って来ないと思います。しかたないので、これからはわたしが書きます。
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明の時代、文某という高官がおられた。累進して大きな郡の太守となったが、年五十五、自分のこの先が気になってきて、人を九仙山に遣わし、自分の寿命を占わせた。
山神の占語にいう、
以問孔老人。
以て孔老人に問うべし。
―――そのことは孔という老人に訊け。
と。
そこで、文太守が孔という老人を探してみると、ちょうど山中から郡の役所の修繕に来ている木こりに、孔という老人がいることがわかった。
太守がそのようなしもじもと直接ことばを交わすことはありません。太守は自らは建物の中に座ったまま、また人をやって、役所の中庭で仕事をしている孔老人に、
「おまえに問うべきことがある」
と声をかけさせた。
老人、若い者を指図しながら、
「いや、わしは今、忙しいんじゃ」
と答える。
方鋸一大木得板。
まさに一大木を鋸して板を得んとす。
「いまちょうど、この大きな木をのこぎりで切り下して、板にさせているところじゃからな」
「これは太守さまよりのご質問であるぞ」
「え? なに?・・・そんなことより、おい、板は何枚とれた?」
「太守さまの御寿命をおまえが知っているなら答えよとの・・・」
「何枚とれた? そうか―――
五十五也。
五十五なり。
五十五、だな」
そのとき、
「誰か、誰かーーー!」
という声が建物の中から聞こえてきた。
文太守が胸を押さえて倒れたのである。
太守はそのまま意識を取り戻すことなく、五十五歳で息絶えた。
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のだそうでございます。お盆なので。
前回に引き続き「元明事類鈔」巻二十五より。