物知りおじさんのお話を聞く。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
○東海の向こうに「蛇丘」という土地がある。たいへん嶮しく、じめじめした土地である。
衆蛇居之、無人民。蛇或有人頭而蛇。
衆蛇これに居りて人民無し。蛇あるいは人頭にして蛇なるものあり。
無数のヘビがおり、人間はいない。代わりに、ヘビの中に人間の頭のあるヘビがおる。
へー、そうなんですか。(ヘビの頭の人についてはこちら参照)
○嶺南の広州に行くとさすがに南国である。ヘビが執念深い。
人触之、即三五里随身即至。
人これに触るれば、即ち三五里、身に随いて即ち至る。
ひとがヘビに故意にしろ過失にしろ接触すると、三里から五里(一里=400メートルで計算してみてください)の間、追いかけてくるのである。
めんどくさいことである。
若打殺一蛇、則百蛇相集。将蜈蚣自防乃免。
もし一蛇を打ち殺さば、すなわち百蛇相集まる。蜈蚣を将(もち)うて自ら防げばすなわち免る。
もし、一匹でもヘビを打ち殺してしまうと、すぐに百匹のヘビが復讐のために集まってくるのだ。こんなとき、(ヘビが苦手とする)ムカデを使って自分の身の回りにヘビが寄ってこないようにすると、助かる。
むかでを持っていないといけない。
○(広州の)顧渚山には赤い石に囲まれた谷間(石洞)があり、ここに
有緑蛇、長可三尺余、大類小指。
緑蛇有り、長さ三尺余可り、大いさは小指に類す。
みどりヘビがおる。長さは三尺あまり(1メートルぐらいか)で、太さは小指ぐらいしかない。
このヘビは木の枝にからみついていることが多いが、毒は無い。ただし、
見人則空中飛。
人を見ればすなわち空中に飛ぶ。
人間の姿を認めると、ぽん、と空中を飛ぶ。
そして、別の木の枝にからみついて逃げるのであるが、知らないひとが見るとびっくりして、そのために命を落とす者も多い。
へー。
○山南五渓には毒蛇が多い。(毒ヘビでないのもいる)
一番多いのは蝮蛇(まむし)といわれる毒ヘビである。
烏而反鼻、蟠於草中。
烏にして反鼻、草中に蟠る。
黒ずんだ色をしていて鼻が上向き(という獰猛な顔つきをしていて)、草の中にとぐろを巻いている。
その毒牙は引っかかると抜けないように口の内側に向かって鈎型に曲っており、数歩離れたところから、まるで放たれた矢のようにひとに向かって飛びかかってくる。
螫人立死。中手即断手、中足則断足、不然則全身腫爛、百無一活。
人を螫(さ)せば立ちどころに死す。手に中せば即ち手を断ち、足に中せばすなわち足を断つべく、然らざれば全身腫爛して百に一も活する無し。
咬まれたひとはあっという間に死んでしまう。だから、手を咬まれれば即座に手を斬りおとしてしまわねばならない。足を咬まれれば足を斬りおとさねばならない。そうしなければ、全身が腫れ爛れて、百人にも一人も助からないからである。
それから、黄喉蛇というヘビがおる。
これはよく人家の屋根に住んでいて、毒は持っておらず、蝮蛇を食べるので、益のあるヘビである。しかし、
食飽則垂頭下、滴沫地墳起、変為沙虱、中人為疾。
食飽きれば頭を垂れ下り、沫を地に滴らせて墳起するに、変じて沙虱となり、人に中(あた)りて疾を為す。
マムシを食べ飽きたときは、何かにぶらさがって頭を地面に向かって垂れ下げていることがある。このとき、口から泡を吹くのだが、その泡が地面に落ちるとそこが盛り上がり、そこから「すなしらみ」と言われる小さなムシが生まれてくる。このムシが人を刺して病気にすることがある。
ので、注意が必要である。
はあ。
最後に、大王蛇。
額上有大王字、衆蛇之長、常食蝮蛇。
額上に「大王」字あるは衆蛇の長にして常に蝮蛇を食らう。
額に「大王」という文字の浮び出ているヘビがいるが、これはもろもろのヘビどもの王様であり、いつもむしゃむしゃとマムシを食うているのである。
○キビにヘビが来るときの対策は・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もう飽きてきたので止めてもらいます。今日の物知りおじさんは唐の浮休子・張鷟さんでした。「朝野僉載」巻五より。ヘビの毒もおそろしいが、まことに害ある毒を吐くのは人間というものだ。今日もその毒に打たれてわしは・・・。