平成22年11月11日(木)  目次へ  前回に戻る

「みんな仲良しいいことにゃあ」

明の弘治年間(1488〜1505)のことでございます。

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杭州の町の中に真如寺というお寺がありましたのじゃが、このお寺に景福という青年僧がおりました。

この僧、身の回りの世話をする小僧の一人もおりませなんだが、

畜一猫。

一猫を畜(やし)なう。

ネコを一匹飼っていた。

「このネコはオトコのコなんですよ」

ある雨の日に捨てられて鳴いていたのを拾ってきたといい、

日久馴熟。

日久しくして馴熟せり。

長い間一緒に暮らしているので、たいへん僧になついているのだった。

僧が檀家のところにお経を詠みに出かけるときには、

以鎖匙付之於猫。

鎖匙(さひ)を以てこれを猫に付す。

扉のカギをネコに預けて行くのである。

そして、

回時撃門呼其猫、猫乃含匙出洞交主也。

回時、門を撃ちてその猫を呼ぶに、猫すなわち匙を含みて洞を出で、主に交わるなり。

帰ってきたら、閉ざされた門を叩いてそのネコの名を呼ぶのだ。呼ばれるとネコはカギをくわえて穴が出てきて、主人の僧にまとわりつくのである。

「おかえりにゃさい」

「いつも留守番、ありがとう」

と言うて抱き上げると、ネコは嬉しそうに僧の頬を舐めたりします。

他人が門扉を叩いても、誰かがその僧の声色を真似てみても、まったく反応しない。ひとびとは

可為異也。

異と為すべきなり。

おかしなことよな、とウワサした。

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「七修類稿」巻四十七より。微笑ましい人獣交流譚でございますが、腐女子的にはこの程度でも、もうボーイズラブをお感じになることでしょう。

なお、最近、短めの話ばかりなのは起動に時間がかかっているからである。

 

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