平成22年11月10日(水) 目次へ 前回に戻る
清の終わりごろのことでございます。
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日もとっぷりも暮れてから、天津郊外の海辺の道を急いでいた。
と、波打ち際に何かいる―――。何か、小さい、赤黒いモノが蠢いている―――
あ。
そいつからわしの方に、何かが飛んできた―――
わしは何とか避けた。
「な、なにをするか・・・」
と波打ち際の方を見ると、さっきの小さい赤黒いモノは、つつつ、と水の中に、引き込まれるように消えて行ったのである。
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「ああ。おかしなものを見た。まだ寒気がするわい」
と天津の街中に入ってから、安酒場で身を温めていると、
「ほひょひょ、変なものを見たのかな?」
と老人に声をかけられた。
「じいさん、わしはこんな目にあったのですよ」
とわしが一部始終を語ると、じじいはにやにやしながら、
「それは
@泥魅(泥ぼうず)
じゃ」
と言うのである。
「へー、そういう名前があるのですか」
「うむ」
じじいの話によると、
状如嬰孩、高二尺許、通体紅色。
状は嬰孩の如くして高さ二尺ばかり、通体紅色なり。
姿形は赤ん坊のようで背丈は二尺ほど、体中赤い色をしている。
とのこと。
「ああ、確かにそんな感じでした」
小さいが侮ってはならぬものだそうだ。
毎以湿泥投人、中之輙病。
つねに湿泥を以て人に投じ、これに中ればすなわち病む。
湿った泥を人に向かって投げつけてくるのであるが、これに当たると病いに罹る。
のだからである。
ただこの妖しは
畏金鉄、聞声即退。
金鉄を畏れ、声を聴けば即ち退く。
金属製のものを恐れるらしく、金属の触れ合う音を聞かせると逃げ出してしまう。
「では、準備しておれば安心ですね」
「そうじゃな。・・・これは
水鬼之類也。
水鬼の類なり。
水の精霊の一種であろう。
しかし、
A羊魃(ひつじおばけ)
はちょっと違う」
状如子羊、長数寸。
状は子羊の如くして、長さ数寸。
すがたかたちは子羊のようで、体長はわずか数寸である。
これは
夜出水辺尋食、不為人害。
夜、水辺に出でて食を尋ぬれども、人の害を為さず。
夜中、食べ物を探しに水辺に出てくるが、ひとに悪さはせぬ。
「へー、特に害は無いのですね」
「そうじゃ。
乃羊骨浸水多年、受天地之精気而成者也。
すなわち羊骨の浸水すること多年なれば、天地の精気を受けて成るものなり。
単に、ヒツジの骨が水に浸かって何年も経ち、それが天地の精気を貯めこんで、このような姿をとるものなのである。
つまり、精霊の類ではなく、珍しい生物というべきものなのじゃ」
「へー。よくわかりました」
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教えてくれたのは清末の天津のひと、酔茶子・李慶辰先生である。(「酔茶志怪」巻二より)
ああ、今、廟堂に「売国ぼうず」あり、社会の木鐸は変化して「すりかえおばけ」となって出現しているのである。本日sengoku38氏逮捕後の廟堂の発言や報道など聞いていると、もう怒りでハレツしそうである。いよいよやってしまうかも。やってしまうよー。