平成22年10月5日(火) 目次へ 前回に戻る
南宋末の権力者・賈似道のエピソード。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
賈似道には幼い帝を廃し、易姓革命して自ら即位しようという志があった、という。
あるとき、その志が成るものかどうか、一術士を呼んで占いをさせてみた。
この術士の占いの方法は、
拆字術(たくじじゅつ)
である。
何かの文字を与えると、それを分析(「拆」(タク)は、「開く」「裂く」の意)して、将来のことを占うという術だ。
賈似道は術士に言うた。
「わしにはある志がある。それが成功するかしないか、占ってみてくれ」
術士は答えた、
「されば公相(←宰相である賈似道への呼びかけ)、何か一字、頭にひらめいた文字を教えてくだされ」
賈似道は杖で地面に「竒」(「奇」の本字)という字を書いた。
竒
この字をようく見てくださいね。
術士もじろじろとようく見た。
やがて、術士、おもむろに曰く、
公相之志、不諧矣。
公相の志、諧(ととの)わざるかな。
「宰相さまのお「志」というのが何であれ、うまく行きそうにございませぬな。」
と。
「ふ・・・む・・・」
「ご覧下され」
と術士は地面の「竒」の字を指していう、
道立又不可、道可又立不成。
「立」を道(みち)びけばまた「可」とならず、「可」を道(みち)びけばまた「立」は成らず。
「上半分で「立」という字を作ってしまうと、下半分だけでは「可」になりません(上の「一」が足りなくなる)。下半分で「可」の字を作ってしまうと、今度は上半分で「立」ができなくなります(下の「一」が足りなくなる)からなあ。」
「ふ・・・む・・・」
「つまり、立とうとすれば(道徳的に)可ならず、(道徳的に)可ならんとすれば立つことあたわず、ということです」
公黙不語、礼而遣之。
公黙して語らず、礼してこれを遣(や)る。
賈公は黙りこくって何も言わず、たんまりお礼をして術士を帰らせた。
術士が帰った後で、賈似道は
「どうしてやつはわしが(帝位に)「立つ」という臣下として許されざる(「不可」)野心を持っていることがわかるのだ?」
と呟くと、腹心の者を呼んで何かを指図した。
――――数日後、術士は死体となって城門の外の濠に浮いていたのでありました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ああコワいコワい〜。術ができすぎるやつはそれゆえにヤラれるのですなあ。
元(明)・葉子奇「草木子」巻四上より。