平成22年8月12日(木) 目次へ 前回に戻る
康煕四十三年(1704)生まれのひとの思い出話です。ちょうど1700年ごろのことなのかな?
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うちのおやじがはじめて世帯を持ったとき、その舅(すなわち、わしから見れば母方の祖父に当たる)が若夫婦の新居にやってきた。
そして、ロバをつないでいた縄切れがぼろぼろになったので棄てられているのを見つけると、それを拾って家の前の井戸で洗い始めた。
先妣問何用。
先妣、何用なるかと問う。
もう亡くなったわしのおふくろがそれを見て、
「おとうさま、そんな縄、何に使いますの?」
と問うたそうじゃ。
するとじいさまは、
以縛豆棚、可乎。
以て豆棚を縛らんとす、可ならんか。
「うちでも、そろそろマメのつるを巻かせる棚を作らねばならん。これをもらって行って棚を組み立てるのに使おうと思うんじゃ。いいじゃろう?」
と答えた。
おふくろは「何もそんな端切れを使わなくても」とけげんに思ったそうである。
じいさまはその後、わしのおやじに向かって言ったそうじゃ。
吾豈一縄之惜哉。新婦初做家、使知天下無棄物耳。
吾、あに一縄の惜しみあらんや。新婦はじめて家を做(な)す、天下に棄つる物無きを知らしめんのみ。
わしがどうして一本の縄をもったいながる必要があろうか。ムスメがひとさまのヨメになって、新しい世帯の切り盛りをすることになったので、世の中に棄ててしまっていいものなど無い(、何でもまだ使えるから倹約せよ)と教えてやろうとしただけじゃ。
―――なのにあのムスメは・・・。きみにはメイワクをかけるのう。
おやじは恐縮するばかりであった、ということである。
今はわしもそのときのじいさま、その話をしてくれたときのおやじ、の齢になった・・・。
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短くて何ということもないお話で、じいさまはなぜムスメに嫌がらせのようなことをしに来たのだろう、と気になりますが、もしかしたら、じいさまは妻であるばあさまにずいぶんやりこめられていたから、ついついばあさまそっくりのムスメに意地悪がしたくなったのではないか、と思ったりもしませんか。「巣林筆談」巻三より。
お盆に入ってまいりましたので、お見えになっているはずです。みなさまもご先祖さまのことを思いだしてみてください。