平成22年7月15日(木) 目次へ 前回に戻る
わしの同郷(18世紀の江蘇・崑山)に、えらく気の荒い者があった。
このひと、イキモノの命を奪うのが三度のメシより好き、という性格。鍛冶屋に頼んで鉄の「叉」(サ。さすまた。先が二股になった刺具)を造らせたが、その柄の方にも工夫を凝らして、柄の一番根元に「銍」(チツ)をくっつけた。「銍」は「鎌」です。
彼は
「こうしておけば、刺解両用、すなわち、イキモノを捕らえるときに、先の方で刺し、根元の方の鎌で切り裂くことができる。より多く殺すことができるのだ」
とうそぶいて、これを常に手にして愛用し、必要も無いのに多くのイキモノの命を奪っていた。
一日渡橋、見一大鯉、奮叉直刺。
一日橋を渡るに一大鯉を見、叉を奮いて直刺す。
ある日、橋を渡っていて、下の川に大きなコイが泳いでいるのを見かけ、
「エモノがおったわ」
と、ただちに手にしていた例のサスマタを振り上げ、水中のコイに向かって投げつけた。
サスマタはコイをかすめて、一度水中深く沈み、次に浮き上がってきた。
・・・と、そのとき、そのひとは、
失足堕河。
足を失っして河に堕す。
バランスを失って足を滑らせ、橋から川に落ちてしまったのだった。
柄尾之銍倒刈其頚。
柄尾の銍、その頚を倒刈す。
サスマタの柄の根についていた鎌が、ちょうど上を向いて浮き上がってきたちょうどそのところに、そのひとは頭から落ちたのだ。
「うぎゃあ」
そのひとはそのまま沈んで行った。
しばらくすると、周囲に血が広がり、続いて、
身首異処。
身・首、異処なり。
カラダとアタマが別のところに浮き上がってきたのであった。
相応の報いを受けたということであろう。
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コワいですね。「巣林筆談」続編巻下より。
気をつけてくださいね。「やった!」と思ったときに実は足を滑らせていて、しばらくすると落ちてしまうひと多いよ。ひひひ。