平成２２年７月１３日（火） 目次へ 前回に戻る
会稽・山陰のひと楊維楨は字を廉夫といい、鉄崖道人、鉄笛道人等と号す。元・泰定（１３２４～２８）の進士であるが用いられず、元末の戦乱を避けて浙西の山水に逃れ、明興って洪武帝に聘せられるや都に留まること僅かに百十日、帰るを乞うて実家に至って卒した。年七十三なり。詩に巧みにしてその作風を「鉄崖体」と称され、また楽府と鉄笛を善くしたという。（明史巻２８５）
・・・という楊維楨は、そのような粋人でございましたから、
耽好声色。
声色を耽好す。
音楽・舞踊、そして妓女とのエロスのことが、のめりこむほどお好きであった。
舞台の上の歌うたいの女、舞姫らを見ると、その技芸の出来不出来よりも別のことをじっと見ている。
何を見ているかと言いますと、
纏足繊小者
纏足して繊小なる者
纏足して息を呑むほど小さい足をしている女
を探しているのである。
そして、
「ひひひ、これはこれは・・・」
というような妓女を見かけると、すぐに酒席に呼び寄せ、にやにやとその小さな足をながめた上、
「ささ、はよう、ぬ、脱ぐのじゃ、ひひひ」
と
脱其鞵載盞、以行酒。
その鞵（カイ）を脱せしめて盞に載せ、以て酒を行（や）る。
その女の革ぐつを脱がさせて、これを盃に載せると、その上から酒をそそぎ、くつから浸み出した酒を取り巻きたちと回し飲みするのであった。
「ひひひひひ」
その酒を飲むときは、老いて歯の抜けた口をだらしなく半開きにし、まことに至福といった表情していたそうである。
彼はこれを
金蓮杯 黄金のハス（←纏足した女の足の比喩である）入りのさかずき
と呼んだという。
・・・・というのを聞いて、
予、竊怪其可厭。
予、ひそかにその厭うべきを怪しむ。
わしはどうしてそんな汚らしいことをするのか、と怪しんだ。
と、南村田老・陶宗儀は怪しんだそうですが、その後いろいろ調べたところ、風流人たちのこのような振る舞いは宋の時代からあったことらしい。
ので
老子之疏狂有自来矣。
老子の疏狂も自（よ）りて来たる有るかな。
楊維楨老先生のおかしなふるまいも、実は由来のあることであった。
という結論に至った。
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「南村輟耕録」巻二十三より。由来のあることだからしてもいいでしょう。こういう話を読みますと、どうしてだかにやにやしてきてしまいます。よね？
併せて楊鉄崖の詩の紹介をしよう・・・と思ったのですが、もう遅いので止めます。オモテがつらいのです。