平成22年5月22日(土) 目次へ 前回に戻る
←こいつはタマゴで殖えるのか
田忠良は元の世祖(フビライ・ハン)に仕えたひとで、
好学通儒雑家言。
学を好み、儒と雑家の言に通ず。
学問を愛し、儒学のほか、技術・魔法の類の知識にも通じていた。
という。
あるとき、召されて急ぎ参内し、皇帝の前に畏まると、帝は彼をぎろりと(そのユーラシアを睥睨した銀の眼で!)睨み、
指西序第二人。
西序の第二人を指す。
(帝の前に東西に別れて侍っている近侍たちのうち)西側の二番目に座っている男を指さしたのだった。
そして、そのユーラシアを震え上がらせる威厳ある声で、問うたのである。
彼手中握何物。
彼の手中に何物を握るや。
「あいつは手の中に何を握っておるのであろうか?」
田忠良、ちらりとその男も見る。男は深く手を袖のうちに拱しており、その手首さえ見えない。
しかしながら田忠良は、澱みも無く厳然として答えて曰く、
鶏卵也。
鶏卵なり。
「ニワトリのタマゴにござりまする。」
帝が顎をしゃくって合図をしたので、西の近侍の二番目の男は袖の中から手を出し、掌を開いた。
果然。
果たして然り。
そのとおり、ニワトリのタマゴであった。
「おお・・・」
周囲から驚嘆の声が聞かれた(そこらへんにマルコ=ポーロもいたかもよ)が、田忠良は当たり前のことを当たり前にした者のごとく表情を崩すことさえなかった。
世祖は無表情に頷き、
「下がれ」
と言うたので、田忠良は退出した。
翌日、宮中より黄金百枚の賜り物があったということである。
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帝が一族の叛乱を治めに西巡したことがあった。
午前の行を終えて小休止に入ったとき、田忠良は帝からの召喚を受けた。
早速、帝のオルドに伺候して御前に平伏すると、椅子に座った帝は、無表情に問うた。
朕有所遺汝知何物、還可復得否。
朕、遺(わす)るるところあり、汝何物なるかを知るか、還してまた得るべきや否や。
「朕はどこかに物を失くしてしまったようである。それが何であるか、それが手元に戻って来るかどうか、おまえにはわかるか。」
田忠良、にこりともせずに、即座に答えて曰く、
其数珠乎、明日二十里外当有得而来献者。
その数珠か、明日二十里外よりまさに得て来たり献ずる者あるべし。
「その繋いだ珠飾りのことでございましたら、明日、二十里ほどの距離を隔てたところから見つけだしてお届けに来るものがございましょう。」
明日、そのとおり、出発地の地方官から使いを立てて、帝のお忘れになった珠飾りが届けられたのであった。
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以上。「元明事類鈔」巻十八より。もと「元史」に出る話だということですが、まだ確認しておりません。
学問してこんな能力がつくのであればわしもマジメに学問するのですが、これは透視の異能であるから普通の学問では学べそうにもありませんね。