今日もまた、ネズミの話をいたします。
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成化二年(1466)のことだそうですが、長楽の読書人・陳豊というひと、山中の書斎で一人書を読んでおりましたところ、天井の方から何やら物音がする。
見上げてみますと、
梁上二鼠相闘。
梁上に二鼠あい闘えり。
はりの上で二匹のネズミが争っていたのであった。
と、この二匹のネズミ、
忽墜為二老翁。長可五六寸、対座劇飲、声如小児。
たちまち墜ちて二老翁となる。長さ五六寸ばかり、対座して劇飲し声は小児の如し。
突然、はりから落ちてきて、二人の老人となった。老人の背丈は五六寸ほど(20センチ弱)、二人向かい合って座り激しく酒を飲む。その声はこどものようである。
唖然として見ていると、今度は
既而有二女子歌舞勧酬。
既にして二女子の歌舞し勧酬するあり。
いつの間にか二人の(普通のニンゲンほどの)妓女となって、歌い、舞い、陳に酒を勧めるのであった。
このとき、この二人の妓女の歌った詩が「列朝詩集」に採用されているそうである(←残念ながら未入手)。
陳は勧められるままに飲んだ。
酒既闌、迺合為一大鼠。
酒既に闌(たけな)わにして、迺(すなわ)ち一大鼠と為る。
酔うてきたころ、二人の女性が今度は突然くっついて、一匹の見上げるような大ネズミとなった。
この大ネズミ、
向士人作拱揖状而去。
士人に向かいて拱揖の状を作して去れり。
読書人・陳豊に向かって両手を胸の前で交叉させ、左右に動かすあいさつをすると、どすん、どすん、と夜の闇の中に消えて行った。
そうである。
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「列朝詩集小伝」閏集より。なんとも楽しいネズミである。が、もしかしたらこのような幻像を見せているうちにおそろしい悪事を行っているのかも知れませぬ。