謹んで新年のお慶びを申し上げます。
年の初めにふさわしく、めでたいお話をいたします。
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●めでたいこと@
若いころ、下役として幽州節度使の張守珪に仕えていた安禄山は、羊を盗んで捕まった。
張は「そんなやつは棒で打って殺してしまえ」と命じた。
捕縛されていた禄山はそれを聞き、
大夫不欲滅両蛮耶。何為打殺禄山。
大夫両蛮を滅さんと欲せざるや。何すれぞ禄山を打殺せんとする。
節度使さまは契丹・奚の二種類の蛮族を打ち滅ぼそうとしておられるのではないのか。それなのにどうしてこの禄山を打ち殺してしまうのであろうか。
と大声を以て呼ばわった。
張はそれを聞いて興味を持ち、禄山を引き出させて見たところ、
見其肥白、壮其言而釈之。
その肥白なるを見、その言を壮としてこれを釈(ゆる)す。
その色白ででっぷりしているのを見、またその言葉がかっこよかったので、死罪を免じた。
いやあ、助かりました。でぶだといいことがあるのです。ああめでたい。
これ以降、禄山は驍勇によって出世していくのだが、張守珪の威風を畏れて
不敢飽食。
あえて飽食せず。
ハラ一杯になるまでメシを食うことがなかった。
そうである。
しかし、安禄山は出世して節度使になると、どんどん肥ってきた。
●めでたいことA
腹垂過膝、重三百三十斤。
腹は垂れて膝を過ぎ、重さ三百三十斤なり。
ハラがだぶついて、立ったときに膝よりも下まで垂れ下がるほどになった。体重は三百三十斤であった。
唐代の一斤はほぼ600グラムです。計算してみてください。
毎行以肩膊左右擡挽其身、方能移歩。
行くごとに肩膊を以て左右その身を擡挽(だいばん)して、はじめてよく歩を移す。
歩くときには、左右の者が肩のところに手を入れて持ち上げ、引っ張ってやっと移動できる。
ほどであった。
これはめでたいことである。
●めでたいことB
そのような体型であったが、
至玄宗皇帝前、作胡旋舞、疾如風焉。
玄宗皇帝の前に至るに、胡旋舞を作し、疾きこと風の如し。
玄宗皇帝の御前に出たときには、ぐるぐると回る「胡旋舞」という舞いを自ら舞ってお見せした。そのときの動きの速さは風のようであった。
玄宗皇帝はたへんお喜びになられた、というからめでたいことである。
●めでたいことC
このように肥大となってからは実戦に出るのを得意としなかったが(若いころは勇武を以て聞こえていた)、
欺誘契丹、宴設酒中著茛菪子。
契丹を欺誘し、宴設して酒中に茛菪(コントウ)子を著す。
キッタン族を欺き誘って、酒宴を開く。その酒の中に幻覚作用を持つコントウの実を入れて昏睡させた。
すばらしい歓待です。キッタン族のやつらは幸せ者です。なお、「茛菪」は近代では「たばこ」という訓をつけることもありますが、唐代のやつはもちろん違うものであり、「もっといいやつ」です。
このようなすばらしい歓待をした後で、
預掘一坑、待其昏酔、斬首埋之、皆不覚死。
あらかじめ一坑を堀り、その昏睡を待ちて斬首してこれを埋め、みな死を覚えず。
あらかじめ坑を一つ掘っておき、昏睡したところで首を斬って埋めてしまう。みな意識もしないうちに殺されてしまうのだった。
意識もしないうちにあの世に行けるのである。考えようによってはめでたくないことも無いであろう。
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安禄山は息子の安慶緒にコロされることになるが、直接に手を下したのはキッタン族の宦官・李猪児であった。
旧唐書巻二百・安禄山列伝より。