平成２１年　７月１０日（金）　　目次へ　　昨日に戻る

池北偶談（巻二十二・談異三）にいう。

明のひと王延��はその母が昭聖皇后の姉妹であった関係で、少年時代に宮中に出入りを許され、その性格、まことに豪放、かつ贅沢三昧であった。

・・・昭聖皇后、といわれても

「なんじゃ、そのひと」

という人がいると思います。

もちろん、このＨＰをご覧になるひとはカシコいひとばかりだから、

「おいおい、それぐらい常識だろ」

と思うと思うのですが、そうでないひとがいたときのために補足しておきますと、昭聖皇后は弘治帝（在位：１４８７〜１５０５）の正后で、正確には

昭聖恭安康恵慈寿皇后

といい、張氏である。

なお、彼女の兄弟（王延�浮ﾌ叔父に当たる）の張延齢・張鶴齢はともに外戚として威を震い、後に下獄して誅されていて、明代前期の外戚支配の代表的人物として知られておりますネー。

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ある日、この王延�浮ﾌもとに一人の貧相な中年の男がやってきた。

その男、後生大事に抱えてきた包みを開くと、その中からは「宋版・史記」が出てきた。

宋の時代の印刷物は、現在に至るまで、その紙質や校勘のレベルの高さから尊重されています。特に、「宋版・史記」は当時既に逸失したと思われていた貴重品であった。

その男は、貧窮に耐えられず、命より大切にしているその「宋版・史記」を売りたい、という。

索価三百金。

価を索むるに三百金なり。

金貨三百枚でお引取り願えないだろうか。

というのである。

延�普Aその話を聞いて、

「おいおい、三百金といえばわしにとっても大金じゃ。とはいえこの書は惜しい。一月ほど考えさせてくれぬか。その間、この書は預かっておく。・・・なに、無料とは言わぬ」

と、金貨十枚を差し出した。数ヶ月は暮らせる額である。

男は、「宋版・史記」の代わりに十枚の金貨と、延�侮ｩ筆の預かり書を懐にして引き上げて行った。

・・・一ヶ月後、男が、そろそろお買取いただけるか回答をいただきたい、と訪ねてきた。

延�普A男を迎えて、

「ああ、まことに申しわけないが、これほどの良書とはいえ三百金という額では、さすがにわしも買いきれぬ。この「史記」はお返しする。もちろん、預かり金は返してもらわなくてよい」

「そうですか・・・」

男は、落胆したような、一方で大事な書物がまた返ってきたので安堵したような、何とも言えぬ体の顔をして帰って行った。

・・・帰って行ったのですが、翌日になってまた包みを提げてやってきた。

すぐに延�浮ﾉ面会を求め、包みから昨日持って返った「史記」を取り出し、曰く、

此亦宋槧、而紙差。

これまた宋槧（ざん）なり、而して紙差（たが）う。

確かにこの書もまた、貴重な宋版でございます。しかし、わたくしの持ってきた書とはわずかに紙の質が違うようです。

と申し述べた。

「これもわたしの書物と同じように貴重なもので大差はございませぬが、どこかでお取り違えになられたのではないか」

それを聞いて延�普Aあっはっはっは、と大笑いした。

「さすがにお気づきになられたか・・・。よろしい、こちらにお通りくだされ」

男を自らの書斎に導いて、

「どうですかな」

と延�浮ﾍ書斎の片隅を指し示す。

「おお！　こ、これは、一体・・・」

男は絶句した。

そこには、数十部の「宋版・史記」が積み上げられていたのである。

「あっはっはっはっは・・・、これは

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以下、次回。

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