鶏の不思議について。
@ 巨鶏
天津に出入りする船乗りから聞いたことであるが、大洋を行く船上にて、突然、
一巨鶏、其大如鶴、黒色、羽毛濯濯有光彩、立船頭。
一巨鶏のその大いさ鶴の如くして黒色、羽毛濯々として光彩有るが、船頭に立てり。
一羽の巨大な、鶴ぐらいの大きさの黒色で羽毛がぴかぴかと光り輝いている鶏が、船の舳先に止まっていた。
一炊許、始飛入波中而逝。
一炊許り、始めて飛びて波中に入りて逝けり。
メシを炊くぐらいの時間止まっていたが、やがて飛び立ち、波の中(ということは水中)に消えて行った。
博識なひとたちや西洋人に、このニワトリのことを訊いているのだが、今のところ誰ひとりその名を知っている者はいない。
A 自釜中飛起
河南のある県で、
雨後、忽有一雄鶏自空飛落。高二三尺。
雨後、たちまち一雄鶏の空より飛び落ちる有り。高さ二三尺なり。
雨上がりに、突然一羽のおんどりが空から落ちてきた。このニワトリ、背の高さが60〜90センチもある。
のみならず、とさかがたいへん大きく、また目を奪うような模様がついていた。
(いかにもチュウゴク的であるが→)村人はこのニワトリを捕まえ、食べようとして釜で煮た。
すると、死んだと思っていたこのニワトリ、
忽自釜中飛起。
たちまち釜中より飛起す。
突然、釜の中から飛び上がった。
飛び上がって逃げて行ってしまい、しかもそれだけでなく、
火従竈出、延焼街道数里。
火、竈より出で、街道数里に延焼す。
そのカマドにくべていた火が燃え上がり、村人の家だけでなく、そのあたりの道沿いの町を数キロほどに延焼して、焼き尽くしてしまった。
B 鶏雛
西洋との貿易をしていた段某の、北京城内に持っていた屋敷でのこと、
夜見鶏雛数十、従地隙出。
夜、鶏雛数十、地隙より出づ。
夜中、ひよこ数十羽が、地面の隙間からぴいぴいと出てきた。
そこで、その場所を掘ってみると、銀貨が無数に出てきたのであった。この銀貨は明の崇禎の年号が刻まれていた。
銀貨がひよことなったのであろうか。
C 黒鶏
満城郊外の農夫、村の外で一羽の黒い鶏を見つけた。このニワトリは二つの目が飛び出しており、何かに怒っているかのように威厳があったそうである。
(いかにもチュウゴク的であるが→)農夫はこのニワトリを追い、草むらの中で追い込んで、
卒獲之、烹食。
ついにこれを獲らえ、烹て食らう。
やっとこれを捕らえて、煮て食った。
直後に、
吐泄大作、膈冷如冰。
吐排大いに作り、膈(カク)冷えて氷の如し。
上からは吐瀉し、下からは下痢して、止まることなく、横隔膜のあたりが冷えて氷のようになってしまった。
彼は吐き、かつ下痢し、そして震えながら死んだ。
これについては博識者の解説があり、それは
新死者之煞也。
新死者の煞(サツ)なり。
最近死んだひとの悪い気が形をとったものではなかったか。
というのである。
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以上、李酔茶先生「酔茶志怪」巻三より。