平成21年 5月10日(日)  目次へ  一昨日に戻る

鶏の不思議について。

@ 巨鶏

天津に出入りする船乗りから聞いたことであるが、大洋を行く船上にて、突然、

一巨鶏、其大如鶴、黒色、羽毛濯濯有光彩、立船頭。

一巨鶏のその大いさ鶴の如くして黒色、羽毛濯々として光彩有るが、船頭に立てり。

一羽の巨大な、鶴ぐらいの大きさの黒色で羽毛がぴかぴかと光り輝いている鶏が、船の舳先に止まっていた。

一炊許、始飛入波中而逝。

一炊許り、始めて飛びて波中に入りて逝けり。

メシを炊くぐらいの時間止まっていたが、やがて飛び立ち、波の中(ということは水中)に消えて行った。

博識なひとたちや西洋人に、このニワトリのことを訊いているのだが、今のところ誰ひとりその名を知っている者はいない。

A  自釜中飛起

河南のある県で、

雨後、忽有一雄鶏自空飛落。高二三尺。

雨後、たちまち一雄鶏の空より飛び落ちる有り。高さ二三尺なり。

雨上がりに、突然一羽のおんどりが空から落ちてきた。このニワトリ、背の高さが60〜90センチもある。

のみならず、とさかがたいへん大きく、また目を奪うような模様がついていた。

(いかにもチュウゴク的であるが→)村人はこのニワトリを捕まえ、食べようとして釜で煮た。

すると、死んだと思っていたこのニワトリ、

忽自釜中飛起。

たちまち釜中より飛起す。

突然、釜の中から飛び上がった。

飛び上がって逃げて行ってしまい、しかもそれだけでなく、

火従竈出、延焼街道数里。

火、竈より出で、街道数里に延焼す。

そのカマドにくべていた火が燃え上がり、村人の家だけでなく、そのあたりの道沿いの町を数キロほどに延焼して、焼き尽くしてしまった。

B  鶏雛

西洋との貿易をしていた段某の、北京城内に持っていた屋敷でのこと、

夜見鶏雛数十、従地隙出。

夜、鶏雛数十、地隙より出づ。

夜中、ひよこ数十羽が、地面の隙間からぴいぴいと出てきた。

そこで、その場所を掘ってみると、銀貨が無数に出てきたのであった。この銀貨は明の崇禎の年号が刻まれていた。

銀貨がひよことなったのであろうか。

C 黒鶏

満城郊外の農夫、村の外で一羽の黒い鶏を見つけた。このニワトリは二つの目が飛び出しており、何かに怒っているかのように威厳があったそうである。

(いかにもチュウゴク的であるが→)農夫はこのニワトリを追い、草むらの中で追い込んで、

卒獲之、烹食。

ついにこれを獲らえ、烹て食らう。

やっとこれを捕らえて、煮て食った。

直後に、

吐泄大作、膈冷如冰。

吐排大いに作り、膈(カク)冷えて氷の如し。

上からは吐瀉し、下からは下痢して、止まることなく、横隔膜のあたりが冷えて氷のようになってしまった。

彼は吐き、かつ下痢し、そして震えながら死んだ。

これについては博識者の解説があり、それは

新死者之煞也。

新死者の煞(サツ)なり。

最近死んだひとの悪い気が形をとったものではなかったか。

というのである。

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以上、李酔茶先生「酔茶志怪」巻三より。

 

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