もうおしまいかも知れませんねえ。
○第一話。
楚の国のひと、サルを捕らえたのでこれを殺し、大鍋に入れて煮込んだ。
ぐつぐつとナベは煮立った。
・・・十分煮込んでサルのスープができました。
そのひとは隣人たちを招待して、そのスープを振舞った。
「さあ、すばらしいスープができました。お肉も少しづつ椀に盛り、香り草を載せました」
そして、
以為狗羹也。
以て狗羹なりと為す。
これはイヌのスープだ、と言った。
隣人たちは、
甘之。
これを甘しとす。
「これは美味い」と称賛した。
ウシ、ブタ、ヒツジ、イヌ、ニワトリが当時のご馳走でした。牛・豚・羊は士以上の支配者階級の高級な食べものですから、庶人にとってはイヌ肉が最も普通の肉であった。
みなが食べ終えた後で、主人は、「実は・・・」
其猴也。
それ猴なり。
「これはサルの肉のスープでした」
と告げたのであった。
楚の国にはサルを食べる風習は無かった。
「うひゃあ」「気持ち悪い」
ひとびとは、
据地而吐之、尽瀉其食。
地に据りてこれを吐き、その食をことごとく瀉す。
地面に這いつくばって吐瀉し、食べたものをすべて吐き出してしまった。
さてさて、
此未始知味者也。
これ、いまだはじめより味を知らざるものなり。
最初「美味い」と言っていたが、このひとたちは実は味なんてわからなかったんじゃないのか。
○第二話
邯鄲の街からやってきたというひとが、邯鄲で流行りの新しい歌曲を歌い、
託之李奇。
これを李奇に託す。
「この歌は、かの李奇さまが作曲されたのだ」
と宣伝した。李奇は有名な歌い手である。
「確かにいい歌だ」
ひとびとは争って邯鄲から来たひとに歌を習い、誰も彼もが宴席でその歌曲を歌った。
ところが、邯鄲から別のひとがやってきて、
「その歌は確かに流行っているが、李奇の作曲ではないよ」
と教えたところ、
皆棄其曲。
みなその曲を棄つ。
誰もその歌を歌わなくなった。
さてさて、
此未始知音者也。
これ、いまだはじめより音を知らざるものなり。
最初「いい歌だ」と言っていたが、このひとたちは実は音楽なんてわからなかったんじゃないのか。
○第三話
ある村の有力者が一抱えもある大きな石を拾った。
何の変哲も無いただの石だったが、あるひとがそれを見て、
「それは玉璞ですよ」
と教えた。「玉璞」(ギョクハク)は「あらたま」。玉の原石で、これを磨いて玉を得る。
有力者はたいへん喜び、
以為宝而蔵之。
以て宝と為してこれを蔵す。
「すばらしい宝物を得た」と喜んで、大切にしまいこんだ。
ある客人があった際に、
「すばらしい宝物をお見せしましょう」
と言うて「玉璞」を見せたところ、そのひとは、
以為石也。
以て石と為す。
「申し訳ないが、それは誰が見てもただの石ですよ」
と告げた。
有力者は石を棄てた。
さてさて、
此未始知玉者也。
これ、いまだはじめより玉を知らざるものなり。
最初「すばらしい宝物だ」と言っていたが、このひとは実は玉のことなんて何も知らなかったんじゃないのか。
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いずれも「淮南子」修務訓より。
とりあえずみなさん、流れてくる情報はもうちょっと疑った方がいいんじゃないですか、と思いますけどね。多くのことが取り返しがつかないかも知れませんが・・・。もう少しまじめにやってもらいたいものである。