権謀術数といえばサルですよ。
ほんとにどうでもよくなってきています。ニンゲンとしての義務もサボって、どんなに批判されてもいいや、という感じです。
・・・・・・・・・・・・・・
夏の桀王が暴虐の政治を為して怪しからんというので、殷の成湯大乙(後の湯王)はこれを討伐しようと考えた。
宰相の伊尹が言った、
「まだまだ夏王の権威は高うございますからのう・・・。
請阻之貢職、以観其動。
請う、これを貢職に阻んで、以てその動を観んことを。
夏王から命じられて義務となっているシゴトをやらないでみて、それであちらがどう動くか観てみましょう」
「うむ」
シゴトをさぼりました。
すると、桀王は怒って、
起九夷之師、以伐之。
九夷の師を起こし、以てこれを伐たんとす。
多くの東方の種族からなる軍隊を編成して、殷を討伐しようとした。
「九夷」にはいにしえよりいろんな説があります。たとえば「後漢書」東夷伝では、
夷有九種。曰、畎夷、于夷、方夷、黄夷、白夷、赤夷、玄夷、風夷、陽夷。
夷に九種有り。曰く、畎夷(けんい)、于夷(うい)、方夷、黄夷、白夷、赤夷、玄夷、風夷、陽夷なり。
東方には九種の種族がおるんじゃ。すなわち、農耕イヌ族(「畎」(けん)は水田の「みぞ」のことですが、ここでは「イヌ」みたいなやつら、という意味も効かせているのでしょう)、まがり族、しかく族、黄色族、しろ族、あか族、くろ族、風の鳥族、太陽族である。
後には「倭」も入っているという説もあるのですが、ここでは、「九」は多数の意で、「夷」は中原の東方、黄海や東シナ海沿海部の諸民族、というぐらい解しておきました。
「九夷の師」が編成された、という報せを受けて、伊尹は言った、
未可。彼尚猶能起九夷之師。是罪在我也。
いまだ可ならず。彼、なお、九夷の師を起こすを能くすがごとし。これ、罪我に在り。
「まだダメでしたな。あちらは、まだ多くの東方の種族からなる軍隊を編成することができるようです。今回は、こちらに責められるべき点がございましょう」
「うむ」
湯は、
乃謝罪請服、復入貢職。
すなわち罪を謝して服を請い、また貢職を入れたり。
すぐに謝罪して服従を誓い、義務となっているシゴトを従前どおりすることにした。
そこで、桀王は九夷の師に解散を命じた。
サボれませんでした。
さて、
明年又不供貢職。
明年、また貢職を供せず。
翌年、殷はまたも義務となっているシゴトをしなかった。
桀怒起九夷之師、九夷之師不起。
桀、怒りて九夷の師を起こすも、九夷の師起こらず。
桀王はまた怒って、多くの東方の種族からなる軍隊を編成しようとしたが、多くの東方の種族からなる軍隊は集合しなかった。
その報せを聞いて、伊尹は言った、
可矣。
可なり。
「よろしいようです」
「うむ」
湯乃興師、伐而残之、遷桀南巣氏焉。
湯すなわち師を興し、伐ちてこれを残(そこな)い、桀を南巣氏に遷(うつ)せり。
そこで湯は軍隊を編成して、夏の国を討伐して滅ぼし、桀王を南巣氏(なんそうし)の住んでいた地に追放した。
「南巣氏」というのは安徽にあった地名で、今も「巣湖」という湖があります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「説苑」巻十三「権謀篇」より。チャイナといえば、すさまじい権謀術数の渦巻く世界だと思っている我々からしてみれば、あんまりすごい「権謀」ではないですが、シゴトを止めることで上手く情報を取ったということで「権謀」らしいです。ホントは権謀も何も無しにただシゴトをサボりたい、というだけだったのカモ・・・ということはないか・・・。