令和2年9月3日(木)  目次へ  前回に戻る

出勤するだけでもたいへんなのに、どやされ、「君の責任だぞ」「あいつキモい」「しっかりしてくださいよ」と言われ、ニンゲン関係に苦しみ、しかもシゴトまでしなければならないのである。

やっと木曜日まで来たが、明日がこれまたキツい日なのだ。

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明の時代のことですが、南京の西倉巷に艾某という高齢の軍人がいた。千夫長にまで出世していたが、いい年齢なので、この年に退職することとなっていた。

後継ぎにまだ十六七の息子がいたが、こいつが突然、

脣上有贅瘤、初如豆、已漸長大如拳、触之痛不可忍、父子相抱終日啼。

脣上に贅瘤有り、初めは豆の如きも、已に漸く長大なること拳の如くなり、これに触るれば痛きこと忍ぶべからず、父子相抱きて終日啼けり。

くちびるの上にコブができた。最初はマメぐらいの大きさだったのだが、だんだん大きくなって、人の拳ぐらいになり、少しでも何かに触れるとがまんできないほどに痛いのだ。あまりの不幸に親子で抱き合って毎日毎日泣いていた。

ある日、艾某が所用で南京城の南門に出かけ、内橋のあたりまで戻ってきたとき、

途遇一道人売薬者。試以子病語之。

途に一道人の薬を売る者に遇う。試みに子の病を以てこれに語る。

たまたま道ばたで、薬を売っている道士らしきひとがいたので、試しに息子の病気について相談してみた。

すると道士は、

吾能治此。若家何許、旦當詣爾告之。

吾よくこれを治す。なんじの家何許(いずこ)ぞや、旦まさに爾に詣りてこれを告げん。

「それなら、わたしが何とか治すことができるような気が・・・。あなたの家はどこらですか? 明日の朝、あなたの家に行って診察してから、治療法をお教えしましょう・・・いや、できるかなあ、うーん・・・」

と言うので、住所を告げて別れた。

翌日道人果至、診其子曰、是不難、第癒時当謝我二金耳。

翌日、道人果たして至り、その子を診て曰く、「これ、難からず。ただ癒えし時、まさに我に二金を謝すべきのみ」と。

翌日、道士はちゃんとやってきた。子どもを診察して、言うに、

「これはそんなに難しい症例ではない、と思いますが、どうかなあ・・・。もしうまくいったら、その時は、わ、わたしに金貨二枚を謝礼に払っていただくとお約束をいただけますか。だいじょうぶだと思うんで・・・」

艾許諾。

艾、許諾す。

艾某は「もちろんじゃ」と請け合った。

道士は、

出嚢中薬、以一青綫糝之、繋于瘤之根。

嚢中より薬を出だし、一青綫を以てこれに糝して瘤の根に繋げり。

袋の中から何やら薬を取り出して、一本の青い糸状に、コメを練った糊でコブの根の周りに(クスリを)塗りつけた。

「これでいい・・・はずなんですが、うーん・・・」

次日又至、又次日再至、語艾曰、病即癒矣、明日當具金謝我。

次日また至り、また次日再び至り、艾に語りて曰く、「病い即ち癒えたり、明日まさに金を具えて我に謝せ」と。

次の日また診察に来て、さらに次の日もまたやって来て、この時、艾に向かって言うに、

「どうやらこれで病気は治りました・・・と思います。明日来ますから、お金を用意して、礼金を払ってもらいたいものなんですが・・・大丈夫かなあ・・・」

「ありがたい」

艾はその晩、八方手を尽くして金貨二枚を入手し、朝を待った。

ところが、

翌日候之不至。瘤如故。

翌日これを候うも至らず。瘤もとの如し。

次の日、道士を待っているのだが、やってこない。コブはそのままである。

「少しはよくなってきたか・・・」

「い、いや、今日は一段と痛いよう」

父子相抱而啼。

父子相抱きて啼けり。

あまりの不幸に親子で抱き合って泣いた。

しかし、そのうちおなかが減ってきたので、昼めしを食うことになりました。

午飯時、其子方握匕、瘤砉然墜几上、竟無所苦。

午飯時、その子まさに匕(ひ)を握らんとするに、瘤、砉然(かくぜん)として几上に墜ち、ついに苦しむところ無し。

昼めしを食おうとして、子どもがスプーンを手にした、ちょうどその時―――コブはばりばりと剥がれ落ちて、テーブルの上に落ちた。

「あれ?」

もう痛みも何も無くなったのであった。

しかし、

道人遂不至。

道人遂に至らず。

道士はとうとう来なかった。

息子はその年ペキンに行って、親の跡を継ぐことを認められ、後、対倭寇戦に大いに活躍したという。

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「客座贅語」巻七より。よかったですね。道士が来なかったのはナゾですが、@はじめからおカネなんか要らなかった、A何かの事件に巻き込まれて消されてしまった、B記憶喪失になった、Cほんとに自信が無くて覗きに来れなかった、Dシゴトに関する人間関係に耐えられなくなった・・・などが考えられますが、わしの人生経験から言って、CかD、特にDが妥当性が高いであろう。キツかったんでしょうね。

 

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