彼らほどの賢者にも救済できぬことはあるのであろうか。
もうダメだ。また失敗してしまった。
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戦国の時代のことですが、呉の国で、
石益謂孫伯曰、呉将亡矣。吾子亦知之乎。
石益、孫伯に謂いて曰く、「呉まさに亡びなんとす。吾が子またこれを知るか」と。
石益が孫伯に向かって言った。
「呉の国はもう滅亡しようとしています。あなたは気づいておられますか」
孫伯は答えて言った。
晩矣、子知之也。吾何為不知。
晩(おそ)きかな、子のこれを知るや。吾、何すれぞ知らざらん。
「ずいぶん遅いんではないですか、あなたがそのことに気づかれたのは。わたしがどうして気づいてないことがありましょう」
石益は言った。
「なんですと!
然則子何不以諫。
然ればすなわち子何ぞ以て諫めざる。
それなら、どうしてあなたは殿さまに「このままでは国が滅びますぞ」と諫言をしなかったのですか」
孫伯は言った。
昔桀罪諫者、紂焚聖人、剖王子比干之心。
昔、桀は諫むる者を罪し、紂は聖人を焚き、王子比干の心を剖けり。
「むかしむかし、夏の桀王は諫言した者を殺してしまいました。殷の紂王は賢者を火あぶりにし、諫言してくれた叔父の比干(ひかん)を
―――賢者の心臓には七つの穴がある、と聞きますが、本当ですかな。叔父上が賢者ぶってそんなことをおっしゃるなら、本当に七つ穴があるかどうか調べさせてくだされ。
と言ってずぶずぶと胸部を切り裂いてコロしてしまった。
というではありませんか。
それだけではありません。うちの近所でもこんなことがあった。
袁氏之婦、絡而失其紀、其妾告之、怒棄之。
袁氏の婦、絡してその紀を失い、その妾これを告ぐるに、怒りてこれを棄つ。
袁さんの家の奥さんは、糸紡ぎの作業をしていて、糸の緒がどこにあるか見失ってしまったそうですが、侍女がそれを教えてやったところ怒り出して、とうとう侍女を追い出したんです。
コワいですね。
夫亡者、豈斯人知其過哉。
それ、亡びんとする者は、あにその人にしてその過ちを知らんや。
ああ、滅びようとしている人は、そういう人なんです。(誰かから諫められても)自分の過ちに気づくことがありましょうか。
なので、諫言しなかったんですよ」
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「説苑」巻十三「権謀篇」より。石益も孫伯も「けだし呉の賢人ならん」とされますが、他の文書には全く出てこないので、どういうひとだか全くわかりません。袁氏の奧さん、も全くわかりません。近所のひとなんかなあ、と思ったので、そう訳してみました。石益や孫伯は呉の賢人だったのでしょうけれど、その彼らでも呉国が滅びようとするのを回避させることはできなかったのです。わたしがシゴトの失敗を回避できなくても当然ではないか。
みなさんに諫言してあげてもどうやら意味がない、ということもわかりますね。むふふ。