龍である。もちろん想像図だが、だいたいこんなところであろう。もう少しやる気やキレがあったら、まだ滅亡していないと思われる。
コロナ感染陽性者がどんどん増えています。GOTOキャンペーンに行くひとも家に自粛するひとも、小心翼々として行動を慎しんだ方がいいと思いますよ。
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明の中頃、厳訥という役人がおりました。科挙試験に高位で合格し、翰林院編修官という将来のある職に就いていたのですが、
生平悛悛小心。
生平、悛悛として小心なり。
「悛悛」は慎み深い様子。「おずおず」という語感に近いでしょうか。
普段、たいへん慎み深く「気が小さいやつ」と思われておりました。
この厳訥は、あるとき長江中流に用務があって同僚たちと出張し、帰りに南京に寄ることになった。
舟行過燕子磯、維而登焉、雷大作、遂入舟解維。
舟、行きて燕子磯(えんしき)を過ぎ、維(つな)ぎて登るに、雷大いに作(おこ)り、遂に舟に入りて維を解く。
「磯」(き)は、本来は和語の「いそ」ではなくて、急流の中にある岩場のことです。
厳訥らを乗せた舟は、急流の中にある有名な「つばめ岩」のところを通った。名所なので舟を綱で舫って、船客たちは岩に登ってみたのだが、しばらくすると、カミナリがひどく鳴り始めたので、みんな舟に戻って舫っていた綱を解いた。
たいへん荒れ始めて、
已而江波大涌、噴沫蔽空。
已にして江浪大いに涌き、噴沫は空を蔽えり。
すぐに川の波が大いに湧き立ち、しぶきを吹き上げて空を蔽ってしまうほどになった。
おお、そして―――、ごらんなされい!
一龍曳尾自江而下、舟如箕蕩、人皆脱弁。
一龍尾を曳きて江よりして下り、舟は箕の如く蕩(ゆるが)され、人はみな弁を脱せり。
一匹の龍が尾を長く引きながら、江の中から飛び出し、また水中に下っていく。この間、舟は篩われる箕のように無茶苦茶に揺られ、乗客はみんな帽子を飛ばされてしまった。
あまりのことに驚きながら、舟につかまっている手を放して帽子を拾うこともできず、みんな恐怖のために口も利けずにいたが、この間、
公神色不変、縦目之、曰、真奇観也。
公は神色変ぜず、これを縦目し、曰く「真に奇観なり」と。
厳訥さまは顔色一つ変えず、あちらこちらと見回しながら、
「これはほんとに珍しい景観ですね」
と感嘆していた。
龍徐徐而逝。
龍、徐徐にして逝けり。
やがて龍はだんだんと離れて行った。
波も落ち着き、「よーそろー」と舟も平静を取り戻し、日の光の中、江を順調に下り始めた。
この時になって、同行のひとたちは、ようやく
「あの小心者の厳訥が、どうしてこんなに落ち着き払っているのだ?」
と疑問になって、
人皆異之。
人みなこれを異とす。
みんな、なんだか変な気がした。
それでじろじろと見つめたのだが、厳訥は知らぬ顔をしていた、ということだ。
彼は後に宰相となり、文靖公の諡号をおくられている。
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「客座贅語」巻五より。今夜は雷鳴ごろごろとうるさいが、明日は休日なので気が大きくなってきました。へそでも出して寝るか。