ほんとうのことを言うとサボっているとシアワセでならない。勤労の喜びとかはない。
金曜日になりました。世俗社会に暮らすのはもう今週で止めにしたいところだが。
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ほんとうのことを言うとどうなるでしょうか。
戦国の時代、斉の国が魯の国を攻めた。斉は大国ですから、魯は太刀打ちできず、降伏することになった。
斉は、魯の国内に軍を展開したまま、
索讒鼎。
讒鼎を索(もと)む。
「讒鼎」といわれる魯の宝物の青銅器を、献上するように求めた。
「仕方ありませんなあ」
と言いながら、
魯以其贋往。
魯、その贋を以て往く。
魯の国は、ニセモノを提出した。
「うーん」
斉人曰贋也。
斉ひと曰く、「贋ならん」と。
斉のひとは言った。「これはニセモノでしょう」
魯人曰真也。
魯ひと曰く、「真なり」と。
魯のひとは言った。「ホンモノです」
斉曰使楽正子春来。吾将聴子。
斉曰く、楽正子春をして来たらしめよ。吾、まさに子に聴かん、と。
斉のひとは言った。
「それでは、楽正子春(がくせいししゅん)どのをこちらに寄越してくだされ。われらはかの先生にホンモノかニセモノか、お聞きしてみようと思う」
楽正子春は魯の賢者で、孔子の弟子の弟子に該たるひとです。
魯君請楽正子春。
魯君、楽正子春に請う。
魯の君主は、楽正子春を派遣することとし、その前に、子春にホンモノだと言ってくれるように要請した。
楽正子春は言った。
胡不以其真往也。
胡(なん)ぞその真を以て往かざるか。
「どうしてホンモノを持って行かせないのですか?」
魯の君主は答えた、
我愛之。
我、これを愛(お)しむ。
「わしは、この宝物をどうしても手放したくないのじゃ」
「ふーむ」
楽正子春は申し上げた。
臣亦愛臣之信。
臣また臣の信を愛しむ。
「わたしもまた、わたしへの信頼を手放したくはございませんですな」
「そうか・・・」
楽正子春は斉軍の本陣に出向いて、斉の重臣たちに向かって言った。
「この鼎はホンモノではありません。そして、我が君主は、ホンモノをどうしても手放したくないのです」
斉の重臣たちはそれを聞くと、しばらく額を寄せ合って相談していたが、やがて、
「魯の君がどうしても手ばなしたくないというおキモチだということが、よくわかりました」
と、ニセモノを返してそのまま引き上げて行った。
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「韓非子」巻七「説林」下より。ほんとうのことを言ってうまく行きました。しかし、こんなにうまくいくことは普通はありません。楽正子春が立派なひとなので何とかなったんです。みなさんはこんなふうにはいかないので、(A)ちゃんとホンモノを出すか、(B)「ホンモノです」とうそをつくか、するしかないんですよ。