令和2年6月15日(月)  目次へ  前回に戻る

「モグのくせに暴発するかも知れんとはけしからん」みたいなこと言うひともいますよね。

現世はツラいことばかりですが、がまんがまんじゃ・・・。いつか暴発してしまったらどうしようかなー。

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むかしのことですよ。

朝堂審囚、中有殴妻死至大辟。

朝堂にて囚を審らかにするに、中に妻を殴りて死し、大辟に至る有り。

「大辟」(だいへき)は、「大きな辟(つみ)」の意で、「死刑」をいいます。

お役所で各地から持ち上がってきた刑罰の審査をしているとき、女房をぶん殴って殺してしまい、死刑の判決が上申されてきているやつがいた。

「どうしますかなあ」

と相談していると、硬骨で名高い尹直という人が

「ひどいことではありませんか!」

と声を上げた。

「そ、そうですなあ・・・」「やっぱり死刑に・・・」「もっときつい車折とかの・・・」「いや、もっときついのが・・・」

尹直はぐるりとまわりを見回して、おもむろに言った。

人以無子娶妾、遭妻悍、忿殴之、初恐絶嗣。

人、子無きを以て妾を娶るに、妻の悍に遭い、忿(いか)りてこれを殴るは、初め絶嗣せんことを恐るなり。

「ひとが子どもが無いので若い愛人を連れてきたところ、女房に激怒されて、頭に来て女房をぶん殴ったとしても、それはそもそも後継がいなくなるという大問題を解決しよとしたからでありますぞ。

今顧絶其命耶、世之妬婦凌夫以絶人祀者、且長気矣。

今、顧みてその命を絶つや、世の妬婦の夫を凌ぎ人の祀を絶たんとする者、まさに気を長ぜん。

あとからみたら殺してしまったからといって、そのひとを死刑にしてしまったら、世間の妬み深い女は、だんなを支配下におき、(自分はもちろん子どもを産まず、愛人を持たせないので庶子もできず)夫の家の後継ぎを絶って、ご先祖さまが子孫から拝まれることを無くしてしまおうとしているわけで、そんな女どもを調子に乗らせることになってしまいますぞ!

・・・このひとがそんな事情だったかどうかはわかりませんけどね」

「そ、そうですなあ・・・」

衆翕然書可矜、得不死。

衆、翕然として矜すべしと書し、死せざるを得たり。

「翕」(きゅう)は、鳥がみんな一緒に飛び上がる様子で、「急に」とか「みんな一緒に」の意味です。「矜」(きょう)はもともと「矛」をはめこむ「箝」(かせ)のことですが、「あわれむ」「つつしむ」「おしむ」「たっとぶ」「ほこる」といった意味に転じ、すごくたくさんの「感情」を表わす文字になりました。ここは「死刑」にしない、というのですから「あわれむ」の意味でしょう。

ひとびとは、あわてて、みんな揃って、「かわいそうである」と案文に書いたので、このひとは死刑にならずに済んだ。

そうです。

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「玉堂叢語」巻二より。女性が蔑ろにされているーー!!! ゲンダイ日本のようだ! とお叱りの向きもあろうと思いますが、むかしのことだからしようがないですよね。

 

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