令和元年11月26日(火)  目次へ  前回に戻る

「寒くなってきたなあ。もうオバケの国に帰りたいなあ・・・」おばけの国はどこにあるのであろうか。そこから生きて返ってきたひとが少ないので、その

国のことはあまり知られていない。

さすがにもう木曜日ぐらいだろうと思っていたのに、まだ火曜日だったとは。

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温都斯坦(おんとすたん)という国があります。カシミールから騎馬で西南に行くこと四十日、

以象耕、服車致遠皆以象。

象を以て耕し、服車遠きを致すにみな象を以てす。

ゾウを耕作に用いている。また、車を牽かせたり遠方に出かけるには、すべてゾウを使う。

というお国柄ですが、

其地険遠瘴癘、他国人至多死。

その地険遠にして瘴癘、他国人至れば多く死す。

その地に向かう道のりは遠く、かつ険阻で、しかも有毒ガスや熱気で危険であり、他国の者がそこに行くと、たいてい死んでしまう。

このため、その地の情報がなかなか入ってきません。

ゾウのほか、ライオンでも有名で、

城之西巨沢数千里、中有高山、莫窮其頂、出獅子。

城の西に巨沢数千里、中に高山有りて、その頂を窮むるなく、獅子を出だす。

都城の西に数千里(何百キロ)にもわたって巨大な湖沼があり、その湖の真ん中に高い山があって、その頂上まで行ったひとはいないのだが、その山にライオンが棲息している。

というのですが、ほんとうかどうか。

ところでみなさん、獅子(=ライオン)についてはウワサには聞いていても見たことはないでしょう。このドウブツは、

頭大尾虬黄質黒章、毛如虎文、長五六丈。

頭大にして尾虬、黄質にして黒章、毛に虎の如き文ありて、長さ五六丈なり。

「虬」(きゅう)は「みずち」。水中にいる龍あるいは蛇です。一丈≒3.2メートル。

あたまがでかく、尻尾は水龍のようにとぐろを巻いており、体色は黄色でたてがみは黒く、毛にはトラのような模様があって、体長はなんと! 16〜18メートルもあるのだ。

かなりでかいです。

このライオンなるドウブツは、

時踞峰頂、望月欲呑、往往猛飛呑月、去十許里而墜死于山谷中。

時に峰頂に踞(うずく)あり、月を望みて呑まんとして、往往猛飛して月を呑み、十許里ばかりを去(ゆ)きて山谷中に墜死するあり。

ときどき、嶺の頂上にうずくまって、月を見て「食べてやるでガオー」と思い、しばしば猛り狂って飛び上がって月を食べようとして、数キロも飛び回った挙句、山中の谷に落ちて死ぬことがある。

生け捕りにしようとするときは、

開地為阱、伏炮手于下、遇負雛而至者、発炮斃其母而取雛。以精鉄作柱、囲而畜之、日飼以牛。

地を開きて阱(せい)を為(つく)り、炮手を下に伏せて、鄙を負いて至るものに遇うに、炮を発してその母を斃して雛を取る。精鉄を以て柱を作り、これを囲みて畜(やしな)うに、日に牛を以て飼う。

地面に大きな穴を掘り、落とし穴みたいに表面を誤魔化しておく。そして、地中に鉄砲撃ちたちを忍ばせておいて、特に子供を背負った母ライオンが通ったときに、母ライオンをやっつけてそのコドモを捕まえるのだ。捕まえてきたら、鋼鉄製の棒をたくさん作ってこれを並べて牢を作り、そこに閉じ込めて飼うのであるが、エサとして毎日ウシ一頭を食わせねばならないのである。

子ライオンでウシ一頭ですから、親ライオンを捕まえてしまったりしたら、たいへんなことになるようである。

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「茶余客話」巻十三より。生きて返ってきたひとがほとんどいないので、あまり詳しい情報がとれないのが残念ですが、どうせかなりフェイクなんだろうなあ、とだいたいウソだとわかっているのですが、もしも温都斯坦に仕事かなんかで行かなければならないひとがいたりすると、かなりフェイクでも情報無いよりはましやろう、と思って教えてあげました。ちなみに温都斯坦はゲンダイでは「ヒンドスタン」の音訳として使われているそうなんですが・・・。

 

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