令和元年10月7日(月)  目次へ  前回に戻る

「なんだこいつ、おばけじゃないのか」「こいつ海ぼーじだ。お腹減ってるのかなあ」

ようやく秋らしくなってきました。

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清の時代のことなんですが、

天下有窮根。

天下に窮根有り。

この世界には、窮乏の根っこがあるのだ。

窮乏の根っこがあるから、世界中がみんな豊かになる、ということはないのである。

何をか窮根というか。

凡耗物生、費人力、而無秋毫之用者、皆是。

およそ物の生を耗(へ)らし、人の力を費やして、しかも秋毫の用も無きものは、みな是れなり。

動植物をはじめ、無機質も含めて、物質の本性を消耗させ、また人の労働力を費やして、しかも秋のドウブツの毛(は細くなるものだが、それ)ぐらいの細かな用にも立たないものは、すべてこの「窮根」なのだ。

たとえば、

在物曰骨董玩器、曰雕鏤簒組、曰白土、曰楮銭。

物に在りては曰く骨董・玩器、曰く雕鏤・簒組、曰く白土、曰く楮銭。

物でいえば、まずは骨とう品とか手慰みの品、あるいは細かい彫刻のある器や複雑に竹や紐を組み合わせた品、あるいは「白土」、あるいは死者や神祠を祀るための紙銭などがそうである。

在人曰優倡、曰清客、曰僧尼、曰衙役帮身、曰不耕不戦之游民冗兵。

人に在りては曰く優倡、曰く清客、曰く僧尼、曰く衙役・帮身、曰く耕さず戦わざるの游民と冗兵。

人間でいえば、まずは俳優や歌うたい、あるいは文化人、あるいは僧侶や尼僧、あるいは役所にいる世襲の小役人や各種の仲介をするブローカー、あるいは農業に従事しない無職の遊び人、戦わない無用の兵士など。

以上、陳幾亭の発言である。

このうち「白土」については説明が必要であろう。

白土俗名光粉、余杭産最多、置米中、助白色。不過市井作偽、而耗米中之精華、久而膏枯、食之無味。

白土、俗に「光粉」と名づけ、余の杭の産最も多く、米中に置けば白色を助く。市井の作偽に過ぎず、米中の精華を耗らし、久しくして膏枯して、これを食らうも味無し。

白土は、一般には「光り粉」ともいう。わし(と陳幾亭)の出身地である杭州で産出されるのが最も多く、当地の名産みたいになっている。これを米の上に振りまいておくと、より白くなるというものである。しかし、これは大衆向けに物の姿を偽る物質に過ぎず、米の中の栄養分を溶かしてしまい、時間が経つと米がスカスカになって、食べても何の味もしなくなってしまうというものだ。

うーん、確かに人間にもこんなやつがいるなあ。♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡

これに対して、楊漪亭

「いや待て」

と言い出した。

幾亭之言特挙其末焉者。大而貪官傲弁、小而劣師庸医輩、処処有之、非徒無用、又害之矣。

幾亭の言は特にその末焉者を挙ぐるのみなり。大にしては貪官・傲弁、小にしては劣師・庸医の輩、処処にこれ有りて、徒らに無用なるのみにあらず、またこれ害あるなり。

幾亭の言葉は、特にその末端のやつらを挙げているだけじゃ。大きなやつでは強欲な役人や威張り散らすコンサルタント、小さなところでは低レベルの塾教師、ぼんくらの医者などなど、こいつらはあちこちにいて、単に役に立たないだけではなく、害になってしようがない。

低レベルの教師とぼんくら医者ぐらいは我々にも見分けられるような気がします。♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡♡

さらにまた、張楊園が言うには、

四海之窮、皆由于游民之衆。且未論其他、即如生員、軍伍、吏胥三種人、倶不可少者。

四海の窮は、みな游民の衆(おお)きに由る。しばらくいまだその他を論ぜずとも、即ち生員、軍伍、吏胥の三種人、ともに少なかるべからざらん。

世界中が豊かになれないのは、すべて何ものをも生み出さない遊び人たちが多いからでしかない。「遊び人」にはいろんなやつがいるが、他のやつらを論じなくても、地方で学校に入った身分を持っているエリート層、軍隊の士官・下士官・兵士、役所の世襲小役人たち・・・、彼らは確かにある程度は必要な人間である。

然無用冗食十而八九矣。

しかるに無用冗食、十に八九なり。

けれども、現状では、何の役にも立たず無駄にしかなっていないのが、十人に八九人である。

80〜90パーセントは要らん、というのだ。30パーセントしか働かないアリさん以下である。小さな政府論が必要とされる所以であろう。

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「茶余客話」巻三より。清代の話ですから、現代の日本のように「官」の守備範囲が狭すぎるシステムではこんなことない・・・んだと思いますよ。

虐待される児童、生活保護を受けられず餓死する人、ひきこもり者を抱えて老いていく両親―――いにしえの王はまず「鰥寡独孤」の生活を問うたというが、「無告の民」を棄てて、この国の「官」は何をしているのだろうか、「官」を委縮だけさせて、この国の「政」や「論」は何を目指しているのだろうか・・・。

おばけの世界には制度化された救済システムが無いので、連れてきてお魔女さまのどろどろスープを食べさせる。なんでも煮てあるどろどろスープだ。

 

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