令和元年9月8日(日)  目次へ  前回に戻る

「肝冷斎は帰ってこないようでモグ」「そうであるでぶかー」とぶたとのにも報告されたようである。

平日が近づいてきましたが、肝冷斎は帰ってきません。

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西域有魚。名瓦剌。

西域に魚有り。瓦剌(がら)と名づく。

西の方の国に変わった魚がおりますそうな。その名は「ガラ―」。

この魚は、まず目に特徴があるそうです。

其目入水則暗、出水則明。

その目、水に入れば暗く、水を出づれば明なり。

その目は、水中ではどんよりして視力が弱く、水上では澄んでよく見える。

らしい。水中と水上、両方で暮らす魚なんですね。

また、

凡物皆動下顎、此物独動上顎。

およそ物、みな下顎を動かすに、この物のみひとり上顎を動かす。

どんな生物も、すべて下顎を動かしてものを食うものだ(ほんとかなあ)が、この生物だけは上顎を動かしてものを食う。

だそうですから、上顎がでかくて目立つ魚(?)なんでしょう。

そして、

見人遠則哭、近則噬。故西域称仮慈悲者曰瓦剌。

人を見るに遠ければすなわち哭し、近ければすなわち噬む。故に西域に仮慈悲者を称して「瓦剌」と曰う。

ニンゲンが離れたところにいるのを見つけると、まるで泣いているかのように声を挙げる。ところが、近づくと、突然噛みついてくるのである。このため、西方の国では、表面だけ慈悲深く、心中は残虐な人のことを「ガラー」と呼ぶのだそうである。

この魚は、このような怖ろしい心を持っている上に、

遍身鱗甲、刀箭不能入、惟腹下寸許是肉。

遍身鱗甲にして刀箭入るあたわず、腹下の寸ばかりのみ、これ肉なり。

からだ中、甲羅のような固いうろこでおおわれていて、刀や矢が突き刺さる隙がない。ただ、腹の下側に数センチばかり、(うろこが無くて)ふつうの肉が外に出ている部分があるだけなのだ。

このため、ニンゲンはほかのケモノがこいつを支配することはできないのです。

制之者惟仁魚。

これを制するものはこれ仁魚のみなり。

こいつを支配することができるのは、「仁魚」だけなのである。

なんですか、その魚は。「人魚」ではないので、「愛の魚」とでも訳すべきでしょうか。

仁魚鬐最利、故能克也。

仁魚の鬐(き)は最も利く、故によく克つなり。

この「仁魚」さまはそのヒレがおそろしく研ぎすまされているので、(瓦剌の腹の肉の部分を攻撃でき、)このために支配することができるのである。

ところでこの「仁魚」さまですが、

性極慈、嘗負小児登岸、誤斃之、遂触石死。

性極めて慈、かつて小児を負いて岸に登らしむるに、誤まりてこれを斃し、遂に石に触れて死す。

性質は極めて慈悲深く、むかしニンゲンの赤ん坊を助けて、背中に背負って岸辺に至って地上に戻そうとしたときに、誤って水中に落としてしまい、死なせてしまったことがあった。すると、仁魚さまは責任を感じて、自ら石に頭をぶつけて自殺してしまったのである。

責任を感じたやつはもう死んでいるのに、今も「ガラ―」を制御しているのですから、「仁魚」は一匹だけしかないのではなくて、種族としてうじゃうじゃいるらしいことがわかります。

ああ、

以至仁伐至不仁也。

至りて仁なるを以て至りて不仁なるを伐つなり。

これこそ、(かつて最高の仁者である周の文王・武王が、最低の不仁やろうである殷の紂王を討伐したように)最高の仁者を以て最低の不仁者を成敗する、というものであろう。

天が味方をするのだから敗れるはずがないのである。

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「両般秋雨盦随筆」巻一より。この「瓦剌(ガラ―)」は、なんとなく西方アフリカ国の「クロコダイル」「アリゲイター」なのではないかと推測されるのです。「ガラ―」と「クロ(コダイル)」、なんとなく似ていますよね。しかし「仁魚」はわかりません。ピラニアの類でありましょうか。しかしピラニアはアフリカ国にはいないなあ。

肝冷斎は、このへんでちらりと姿を現したようであるが、その後もしかしあらこのような怖ろしいドウブツたちが闘うという西方の国に行ってしまったのかも知れません。本人の意志で帰ってくることは、もうないでしょうなあ。

 

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