令和元年7月2日(火)  目次へ  前回に戻る

光ある道を歩けず、闇から闇へとフクロウの鳴く山中を行くぶたとのとモグだ。ドウブツたちの中でも、彼らは「鈍」とか「怠」と高く評価されている。

まだ火曜日なのにもう週末だといいなあ、と思うようになってきました。ホウホウとフクロウの鳴く山中ですのでホントは曜日など関係無いんですが。

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わたしどもの潜んでいる山中でも、クマ、トラ、サル、イノシシ、ヘビ、フクロウ、ムササビ、さらにわたしのようなニンゲン隠者などが集まりまして、時の人間たちについて、ウワサをして評価したりもするんです。ニンゲン世界では、三国の魏が用いた「九品中正法」による人材の推薦が有名ですが、

山中私議、人才列為九品、以比世爵。蓋賤虚而貴実也。

山中の私議、人才列して九品と為し、以て世爵に比す。蓋し虚を賤しみ実を貴ぶなり。

山中でのひそかな人間評価においても、ニンゲンの才能を九種類に分けて、これを世俗でいう爵位と同様にみなす。その考え方は、虚名をさげすみ、実行を尊敬するのである。

九種類の才能とは何であるか。

一曰孝、事親竭力、移忠于君。

一に曰く「孝」、親に事(つか)えて力を竭くし、君においては忠に移る。

第一は「孝のひと」である。親に服属して持てる力を使い切り、その心を国家において主君への忠に移行させられるような人材である。

二曰義、尽忠效節、軽財赴難。

二に曰く「義」、忠を尽して節を效(いた)し、財を軽んじて難に赴く。

第二は「義のひと」である。真心を尽くして節義を果たし、財産を軽視し、困難な状況をもいとわずに人を助けに行くような人材である。

三曰廉、不苟取受、知耻尚倹。

三に曰く「廉」、かりそめには取受せず、耻を知りて倹を尚(たっと)ぶ。

第三は「廉のひと」である。いい加減な事情ではものを受け取らず、恥を知り倹約をよしとするような人材である。

四曰直、真実不欺、内外如一。

四に曰く「直」、真実欺かず、内外一なるが如し。

第四は「直のひと」である。誠実でひとを欺くことなく、外面も内面もほとんど変わらないような人材である。

五曰謹、持守礼法、行之有常。

五に曰く「謹」、礼法を持守して、これを行うに常有り。

第五は「謹のひと」である。礼儀作法を守って、そこから外れることがないような人材である。

六曰才、謀弁雄略、済時于時。

六に曰く「才」、謀弁雄略にして、時を済うに時においてす。

第六は「才のひと」である。企画力や判断力があり大きな計画が描けて、その時代の困難を時機を見て救済できるような人材である。

七曰教、博学于己、推以及人。

七に曰く「教」、博く己において学び、推して以て人に及ぼす。

第七は「教のひと」である。自分について手広く学び、そこから推測して他人についても考えられるような人材である。

八曰隠、不事王侯、高尚其志。

八に曰く「隠」、王侯に事えず、その志を高尚にす。

第八は「隠のひと」である。王さまや侯爵さまに仕えることなく、その志を高く保っていられるような人材である。

九曰藝、文詞書画、以材成材。

九に曰く「藝」、文詞書画、材を以て材を成す。

第九は「藝のひと」である。文章、詩詞、書、画の各方面に、あるものを使って能力を成就させられるような人材である。

みなさんは、どれか一つぐらいには該当しそうですか。

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「至正直記」巻四より。どれにも該当しないようなやつだと、トラ、クマ、ヘビ、イノシシなどが「食べちゃってもいいかなー」と判断するカモ知れませんよ。

 

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