令和元年6月28日(金)  目次へ  前回に戻る

「心を入れ替えてやる気が出るよう祈祷してやるぞ!」と天狗先生にきっつい祈祷をしていただくが、それでもやる気が出ないとは、古今無双のやる気無しなり。

チャイナの本を読んでいると最低のお話が次々と出てきます。みなさんもこういうの好きだろうなあ、こういうのを載せたらこのHPの読者も増えるだろうなあ、と思うのですが、読者増えてもしようがないし、普段はやる気がないので一人でニヤニヤしているだけでみなさんには教えてあげないのですが、せっかくの週末で少しやる気が出たので、一つ教えてあげましょう。いひひひ・・・。

・・・・・・・・・・・・・

元の時代のことだそうですが、金陵に二人の男が住んでいた。二人はともに肉の小売をしていたが、

嘗以同出買猪、情好甚密、遂為結義弟兄、往来無忌憚。

嘗て同じく猪を買うに出づるを以て、情好甚だ密、遂に義を結びて弟兄と為り、往来に忌憚無し。

一緒にブタの買い付けに出かけるうちに、気持ちがたいへんよく通い合い、ついに義兄弟の契りを結び、何の遠慮も無く付き合うようになった。

仲良きことは美しいですね。

一日、弟与兄妻曰。

一日、弟、兄妻と曰えり。

さて、ある日、義弟が義兄の妻に向かって、こんなことを言った。

吾無妻、凡寒暑衣服、皆得藉嫂氏、破為補綴、垢為洗濯。他日得娶、当報吾兄。但令冷守空房而不能耳、若得嫂全吾一宿之願、吾妻異日亦当侍兄。

吾は妻無く、およそ寒暑衣服、みな嫂氏に藉(たよ)りて破るれば補綴を為し、垢すれば洗濯を為すを得たり。他日娶るを得ば、まさに吾が兄に報ずべし。ただ、空房を冷守せしめて能わざるのみ、もし嫂の吾が一宿の願いを全うするを得ば、吾が妻異日またまさに兄に侍すべきなり。

「おれにはヨメさんがいないからねえ、冬や夏やに着るものは、全部義姉さんに頼って、破れたら繕ってもらい、汚れたら洗濯してもらっている。(本当にありがたいことで、)いずれおれもヨメさんをもらったら、その分義兄さんにお返ししなきゃあと思っているんだが・・・。(なんでも面倒をみてもらっているのだが)ただ、おれのベッドは冷たいまままでどうしようもないのがねえ。もしも義姉さんがおれの一晩の願いをかなえてくれるなら、おれがヨメをもらったら、今度はそのヨメに義兄さんの世話をさせようと思うんだけどもよお」

「へー、あんたそんな気があったのかい」

義姉は弟をじろじろ見た。まあ確かに自分の夫よりは若い。

「そんならあの人に訊いてみるわ」

婦乃以是言備陳其夫。

婦、すなわちこの言を以てその夫に備陳す。

そこで兄嫁は義弟のコトバをそのまま夫に伝えた。

「こんなことを言ってきたんだよお」

「なんだと、あのやろう! ・・・だが待てよ、しかしだ、うーん」

義兄は考えこみ、やがて、にやにやしながら、

「いひひひ、しようがねえなあ、大事な弟だからなあ・・・」

と言い出しまして、

令其妻与之通。意必弟娶不負信也。

その妻をしてこれと通ぜしむ。意、必ず弟娶れば信に負(そむ)かずとせり。

自分の女房に、義弟と関係を持たせたのであった。実は、義弟はいずれ若いヨメをもらうだろう、そのときよもや約束にそむくことはあるまいと思ったのである。

「いひひひ・・・」

後、弟娶、兄亦求奸、不従、遂持尖刀往刺殺之、復自刎、不死、乃為地方所獲。

後、弟娶り、兄また奸を求むるに従わず、遂に尖刀を持して往きてこれを刺殺し、また自刎するに死せず、すなわち地方の獲するところと為る。

その後、義弟はヨメをもらった。そこで義兄は早速不倫を求めたのだが、義弟は断った。

「あのやろう、どういう魂胆だ!」

義兄はついに細切り用の先の尖った庖丁を手にして義弟のところに押しかけて刺し殺し、自分も死のうと首を斬ったが死にきれず、岡っ引きに捕らえられてしまった。

聞之官、審供其情、各証其罪、悔無及矣。

これを官に聞し、審らかにその情を供しておのおのその罪を証すに、悔い及ぶ無し。

裁判になり、ことここに至った事情を細かく自供させ、関係者に証言をさせたのであるが、みなどうしてこんなことになってしまったのか、後悔してももうどうしようもなかった。

・・・・・・・・・・・・・・

「至正直記」巻二より。人間というものを考えるに当たって、たいへん参考になるおハナシだなあ。これを孔斉さんがどこかで聞いてきて、(おそらくニヤニヤしながら)書き留めておいてくれたので、現代の我々も読めて勉強になるのである。孔斉さんはこの類のお話が好きらしく、さまざまな身分のひとの欲情がらみのゴシップをたくさん記録してくれています。さすがは孔子の子孫と名乗っておられるだけあって、ためになる本を書かれたのだなあ。

 

次へ