最近発見された貴重な古拙愛すべき「李白垂釣図」だ。百億分の一ぐらいの確率で「国の宝」ともされるかもしれないレベルの絵だが、誰にも評価されずに消えて行く運命である。
やっと金曜日だ。更新担当者も一部は戻ってきているようだが、まだ怯えているのか、顔を出そうとはしないのだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・
昨日の続きをやっときます。残りは大した話ではないので、ほんとは昨日のうちに終わっておきたかったんですが、途中で消えちゃったので仕方なかったんです。
春秋・晋の定公(在位前511〜前475)と宴会中の楚の大夫・王孫圉(ぎょ)は、続けて言った。
「わたくし、圉はこのように聞いたことがございます。
国之宝六而已。
国の宝は六のみなり。
「国家にとって宝とすべきものは六種類しかないのだ」
と。
六つを数え上げてみましょう。
聖能制議百物、以輔相国家、則宝之。
聖の、よく百物を制議して以て国家を輔相するあれば、すなわちこれを宝とすなり。
あらゆる事件を議論し制御して、国家の運営を助けてくれる聖人(のように優秀なひと)がおられれば、まずはそのひとを国の宝とするのです。
次に、現代(紀元前5世紀)科学の当然の常識として、上質の「玉」(鉱物性のタマ)は水の動きをコントロールできる、とされておりますが、
玉足以庇蔭嘉穀、使無水旱之災、則宝之。
玉の、以て嘉穀を庇蔭して、水旱の災無からしむるに足るあれば、すなわちこれを宝とすなり。
イネなどの重要な穀物の成長を護って、水害や旱害が起こらないようする力のある「玉」があれば、それもまた国の宝とされるのです。
現代では、カメの甲羅を火であぶって割れ目を観ていろんなことを占うわけですが、もともとのカメの霊力によって、その甲羅の力も違ってくるものです。まあそんなのはみなさんも常識としてご存知でしょうけど。
亀足以憲臧不、則宝之。
亀の、以て臧(よ)きと不(いな)とを憲(のり)するに足るあれば、すなわちこれを宝とすなり。
よいこととそうでないことをきちんと予言して、占ったひとの行動を律することのできるような霊力の強いカメの甲羅があれば、それはやはり国の宝とされます。
それから、科学的な常識として、「珠」(貝、龍などが保有する生物性のタマ)は水の気を纏っていることから、多かれ少なかれ火をコントロールできるわけですが、特に強力であれば、その珠のあるところには火災が起こらないですよね。
珠足以禦火災、則宝之。
珠の、以て火の災を禦ぐに足るあれば、すなわちこれを宝とすなり。
火による災いを禦ぐことのできるような力のある「珠」があれば、それは当然国の宝とされます。
また、金属を以て兵器を造りますよね。
金足以禦兵乱、則宝之。
金の、以て兵乱を禦ぐに足るあれば、すなわちこれを宝とすなり。
内乱や外敵から国家を防備するに十分は兵器を作るだけの金属があれば、それも国の宝ということができます。
最後に、
山林藪沢足以備財用、則宝之。
山林藪沢の、以て財用に備うるに足るあれば、すなわちこれを宝とすなり。
いろいろな物資を生み出し、保存したり利用したりするに足りるだけのいろいろな資源を生み出す山林や草地、湿地があれば、それはすばらしい国の宝とされるでしょう。
ということで、以上の@「賢者」A「穀物を護る上質の玉」B「霊力のあるカメの甲羅」C「火災を禦ぐ強力な珠」D「武力を充実させるに十分な金属」E「資源を生み出す山林藪沢」の六つが国宝なんです。
若夫譁囂之美、楚雖蛮夷不能宝也。
かの譁囂(かごう)の美のごときは、楚は蛮夷といえども、宝とするあたわざるなり。
例の、お騒ぎになっておられるような美々しいもの(純白の横長の佩び玉)なんか、我が楚の国は南の外れの野蛮な国ではございますが、さすがに宝とはできませんなあ。
こちらの晋の国は文明の高度なお国でございますからなあ、もちろんあれが宝だなんて、まさか本気ではおっしゃっておられませんよなあ」
「も、もちろんじゃ」
「そ、そうですなあ」
この王孫圉の饒舌な発言は、晋側が「白珩」(純白の横長の佩び玉)を贈り物として求める可能性があったので、「そんなことはありませんよね。うっしっし」とうまく念を押したのだと思います。
・・・・・・・・・・・・
「国語」巻十八・楚語下より。ということで、宝物は六種類しかないのです。しかも21世紀の進歩した現代の科学では、上記のうち、A「穀物を護る上質の玉」B「霊力のあるカメの甲羅」C「火災を禦ぐ強力な珠」の三つについてはもはや迷信によるものとして、宝とする必要はありません。ばーか、ばーか、ほんとに昔のやつは何も知らないんだなあ、と我々現代人の優越性を誇りにしてもいいぐらいです。さらに、AIが導入されれば、@の「賢者」も要りません。そうすると、現代としては、DEの二種類しか宝はないんです。二つしかないなんて、覚えやすくていいなあ。やはり現代は進んでいるなあ。